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2023年06月01日号のバックナンバー

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フォーカス

【マニラ】記録の断片に触れる──女性カルチュラルワーカーたちのアーカイブ

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[2023年06月01日号(平野真弓)]

フィリピンではグループ展の企画やスペースの運営といったオーガナイザーとしての役割を果たしているアーティストによく出会う。こうしたまとめ役を担う人たちの労力があって、美術界の既存のヒエラルキーとはある程度の距離を保ちながら、自由な発想や実験的な表現を支えるコミュニティが形成されてきた★1──にもかかわらず、オーガナイズやマネジメントのタスクは「才能ある」アーティストをサポートする女性的な仕事としてジェンダー化され、ケアやメンテナンスの役割そのものはアートシーンの隅に追いやられてきた★2。こうして美術の歴史のなかで見えなくされてきた仕事は一体どこに記録されているのだろうか。本稿では、女性アーティストやカルチュラルワーカーが残したメモ、テクストや書簡など、記録の断片をつなぎあわせながらオーガナイズやメンテナンスの仕事を追い、彼女たちの視点からフィリピンのアートシーンと社会、歴史について想像し直してみたい。女性による3つのアーカイブづくりの取り組みをマニラから紹介する。

キュレーターズノート

花ひらく石本藤雄の陶

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[2023年06月01日号(橘美貴)]

石本藤雄(1941-)の「陶の花」について、石本の作品を長年見てきたスコープの社長の平井千里馬氏は、写真を見てブローチのようなものだと思い「すごくかわいいものをつくったんだな」と感じたものの、実作を見て驚いたと話す。これはおそらく多くの人が感じることだろう。
現在高松市美術館で開催中の「フィンランドのライフスタイル 暮らしを豊かにするデザイン」展(以下、「フィンランドのライフスタイル展」)で筆者もまた本作に対して似たような印象をもった。チラシにあしらわれた花を見ると刺繍の本に載っていそうな小さくて可憐な作品に思えるのだが、50cmほどの大きさと数cmの厚みがあるこれらの花を会場で見ると一つひとつの存在感が強く、集まって並ぶ様は野生的な気配すらあるのだ。そこにはマリメッコ社のテキスタイルデザイナーとして活躍し、自然を観察して意匠化してきた石本ならではのスタイルも感じられる。
本稿では、このたびの展覧会でひと際目を引いたアーティスト石本藤雄の陶の作品に着目し、これまでの活動と現在を紹介する。なお、より詳しい経歴や作品の変遷については作品集『石本藤雄の布と陶』(パイ インターナショナル、2012)でジャーナリストの川上典李子氏が書いておられるので、そちらもぜひお読みいただきたい。本稿では、本書のほか筆者が道後のアトリエで石本に聞いた話などをもとに紹介する。

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