グローバル化と研究者のネットワーク

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前回のソウル出張の続きです。

ソウルを訪れたのは今回が初めてでした。韓国の現代美術は、何年も前から、当時住んでいたアメリカでも話題になっていて作品を見る機会も時々あったので、もう少し早く訪れたかったのですが、なかなか機会に恵まれませんでした。

今回の滞在では、セミナーをしたSOMA美術館の他に、国立現代美術館、徳寿宮美術館(国立現代美術館別館)、アートソンジェ・センター、オールタナティブ・スペース・ループ、サムジー・スペース、リウム美術館、数々のギャラリー、京畿道のナムジュン・パイク・アートセンターなどを訪問しました。

こうした施設・組織の方々の何人かと話していると、日本のアーティストだけでなく、日本のキュレーターや批評家の名前がよく挙がります。すでにご存知の方も多いと思いますが、日本や韓国、他のアジア諸国のキュレーターが共同で企画する展覧会やシンポジウムは2000年代に入って増えていて、そうした状況の中で当事者同士のネットワークが進展しているようです。

そこで気になったのは、日本で現代美術を研究している研究者の名前がほとんど挙がらないことです。たしかに現代美術研究は、歴史のある美術史研究から見ると、端緒についたばかりと言っていいですし、現在のアートシーンで研究者が果たしている役割は、研究者が批評家として活動する場合を除いて、決して大きくありません。

もちろん、国際美術史学会や国際美学会等の国際的な組織があり、そこで交流が行われているのも事実ですし、私自身、アメリカにいた頃はそうしたシンポジウムやワークショップに参加したこともありますが、キュレーターのように、アジアの同世代と、メールとスカイプで連絡を取り合いながら、共同でプロジェクトを立ち上げていくには至っていません。

とは言え、現代美術の分野で研究者が共同でできることは数多くあります。グローバルな学問動向を反映して関心事の共通性は高まっていますし、比較研究の余地は限りなくあります。また、同じ本を翻訳している場合も多いです(ある美術館の図書室でArt Since 1900 [2005] の韓国語訳を見つけました)。共同研究で検討するテーマについては事欠かないように思います。

日本の現代美術の研究者も、少しずつですが、国際シンポジウムや今回のようなセミナーで、アジアの同世代の研究者と知り合う機会が増えてきていると思います。近い将来に、同世代の研究者と共同で、現代美術のシンポジウムや公開セミナーを企画していければと思いました。

ブロガー

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