クリスティーズ日本・韓国美術部門ディレクター 山口 桂さん

第二回目はニューヨークのクリスティーズで日本美術部門を統括されている山口桂さんにインタビューさせていただきました。偶然、山口さんも私も東京にいるということで、新宿歌舞伎町にある中華料理店でインタビューさせていただきました。一年で一番、日本中で忘年会が行われる12月17日(金)の夜にもかかわらず、割と空いている中、日本語以外の様々な言語が飛び交う独特の雰囲気が、インタビュー音声でも背景音で伝わるかと思います。そちらもあわせてお楽しみください。

下記に、インタビューの要旨をかいつまんでテキストに起こしてあります。インタビュー全体はこちらから音声ファイルでお聴きください。(約30分)
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──まずは、どのようなお仕事をされているかお聞かせください。

オークションハウスのクリスティーズで、日本・韓国美術部門の部長をやっており、スペシャリストと呼ばれる職種。オークションにかける作品を鑑定、査定し、集めてくる仕事。

──ニューヨークがベースですよね?

はい。ニューヨークでのオークションのために、ニューヨークをベースに、日本、ヨーロッパ、アメリカ国内から作品を集めてくる。

──ニューヨークでのオークションということで、主にアメリカ人が買われるんですよね?

最近はオークション会場に来なくても、電話やインターネットを通じて、もしくはアブセンティー・ビッドと呼ばれる予め入札しておく仕組みで買うこともできるが、アメリカ人が一番多く約4割程度。

──実は、偶然私も山口さんも東京にいらっしゃるということで、東京でインタビューさせていただいているのですが、今回東京にいらっしゃっているのはどうしてですか?

今回の出張は少し長くて、日本に来たあと、台北に行って、香港で沸騰している中国マーケットのウォッチをして、アジア美術部門のスペシャリストミーティングに出たあと、東京にまた帰ってきた。東京に帰ってきたあとも、福岡、京都など”演歌歌手”なみに日本国中を廻って日本美術集めをしている。首都圏だけでなく、関西、九州、北陸、特に西日本にやはりいい作品が多い傾向。

──日本以外でもオークション用に作品を集められるんですか?

もちろん。アメリカにはまだまだ日本美術は残っているし、ヨーロッパ、特にフランス、ドイツ、イギリスにもまだまだある。第二次世界大戦後かなりの作品がアメリカに流れたが、少しずつなくなってきている。ということで、年に3、4回日本に来て作品を探している。

──アメリカから日本美術が流出しているというのは、日本に帰ってきているんですか?

日本のバブルのときにかなりの作品がアメリカから日本に買い戻されたのが、その後、日本の景気低迷もあり、また逆にアメリカが買っている状態。

──ヨーロッパや中国はどうですか?

ヨーロッパには買われていく。中国人には中華思想が根強く、日本美術を買う人は少ない。そこに売れれば日本美術マーケットは拡大するはず。

──どのような経緯でニューヨークで今のお仕事をされるようになったんですか?

今の会社に入社後、ロンドンでの研修があり、その後10ヶ月程度ニューヨークでも研修をした。20年ほど前でロンドンのマーケットも強かったが、やはりニューヨークでは印象派の作品など、名品が高額で取引されており、とても感銘をうけた。その後、東京支社で4、5年仕事をしたが、なんとなくもやもやしていた。というのも、東京ではオークションが行われないため、主に日本人顧客のお手伝いをしていたのだが、やはりオークションの現場で、自分がオークションを主宰して仕事がしたいと感じていた。あるとき、ニューヨークの日本美術の部長がやめたことで、自分のところに後任探しをするよう依頼が来た。探したが、日本美術が分かっていて英語ができる人材がなかなかいなかった。自分がいつかはそこに行きたいと考えていたこともあり、それでは自分はどうだと名乗り出たところ、最初はだめだと言われたが、他に人も見つからず、結局2000年から自分がそのポジションにつくことになった。

──ということは、それまでは、日本美術だけを担当されていたわけではないんですか?

日本美術スペシャリストではあったが、バブル崩壊後の当時は、バブル期に日本に流れ込んだ印象派などの作品が売りに出されることが多く、その担当もしていた。

──ヨーロッパで研修、日本で仕事をされて、2000年からニューヨークに移られたわけですが、そのようなケースは多いんですか?

実は、自分がはじめてのケースだった。運も良かったのだと思う。

──前任の方は日本人だったんですか?

ワシントンにいた日本人の方で、京都の骨董屋さんで修行されてワシントン経由で直接ニューヨークに来られた方で、東京支店からというのは自分が最初だった。

──そもそもオークションのお仕事に就かれた経緯はどのようなものだったんですか?

もともとアートは好きだった。父親が日本美術の先生で、幼少の頃は、お茶や仏像など日本のことを叩き込まれて、それがいやでいやでしょうがなかった。そういうこともあり中学以降はアメリカ万歳になった。ウォーホル、リキテンシュタインなどが素晴らしく、かっこ良く思ったし、音楽もロック、ジャズなどに夢中だった。ただ、あるとき父親が1年間アメリカに研究に行くことになった。日本一筋の父親は英語も話せない、切符も買えないような人で、当時広告代理店を辞めた直後だった自分に一緒にきて身の回りの世話をしてくれないかと誘ってくれた。一緒に行くと、米国の美術館の普通は入れない倉庫なんかにも入って色々なものを見れるということだった。自分も旅行でニューヨークに行ったことはあったが長期に行ったことはなく、それは面白そうだと一緒に行くことにした。その1年の間に知り合ったクリスティーズの人がちょうど日本人を探しているということで、誘われて入ることになった。

──そのときはニューヨークにいらしたのですか?

ニューヨークにアパートを借りて、ベースにしていたが、米国にはシカゴ、ボストン、クリーブランドなどすばらしい日本美術コレクションを持つ美術館が各地にあり、そこに行ったり、大英博物館や、ドイツなどヨーロッパにも行ったりした。その際に世界の大きな美術館には日本美術がこんなにあるのかととても驚いた一年でもあった。それまで日本嫌いだった自分が日本好きになった一年だった。

ボストン美術館の浮世絵は世界で一番状態がいい。というのも、変な話だが、その作品の寄贈者との取り決めで、貸し出しはおろか、自分の美術館での展示さえ許されていない。そのため、江戸時代に刷られたそのままの色がほぼ残っている。

──たしかに自分もブルックリン美術館で浮世絵展覧会を見たときに、そういえば日本でもこれほど多くの浮世絵を見たことがないなと感じました。あれでもやはり退色しているのでしょうか?

まあ、ブルックリン美術館もあれを365日見せているわけではないので、発色のいい刷りで世界でも有数の歌川広重、名所江戸百景のコレクション。

──米国滞在において、どういうビザの経緯でしたか?

会社組織に所属しているということで、ビザで大きな苦労をしたことはない。最初のロンドン、ニューヨークは、トレーニングビザで、日本に戻り、そして再度ニューヨークに戻ってきたときは企業間移動のLビザ。当時日本支社の副社長だったので、シニアの立場のL1ビザというもので2000年から2003年くらいまで。その後会社からニューヨークに当分いるのならばグリーンカードのサポートをするということで、申請をしはじめた。ちょうどその際に、妻と出会って結婚することになった。ちなみに私の妻は結婚すると同時にグリーンカードを取得することができた。最初のL1については2年間有効で、その後1年毎に更新が必要だったように記憶している。グリーンカードの申請の際は、会社がしっかり弁護士を雇ってやってくれたので6ヶ月程度で取得することができた。

ちなみに、現在米国のクリスティーズでは、景気の影響もあるが、日本美術部門で、日本人を採用したくとも、若い方のビザサポートまでする余裕がないのが現状。

──米国の大学で学士、修士を取得すると1年間有効のプラクティカルトレーニングビザが出たあと、ビザサポートを雇用主にしてもらってワークビザを取るという仕組みだが、それも厳しいですか?

厳しいのが現状。企業間異動はよくあるので、ヨーロッパの現地支社からニューヨークに異動などはよくある。日本支社は日本で採用活動をしている。

──一番お仕事のプロフェッショナルとして重要な部分とはどのようなことですか?

スペシャリストに関して言えば、2つあって、美術に関する知識と、ただ、それだけではだめで、ビジネスマインドもとても重要で、そのバランスが一番大切だと考えている。学者の方々は僕よりも知識は豊富だが、人付き合いであったり、金勘定ができなかったりする場合がある。オークションも一回一回コストをかけて用意していくもので、しっかり利益を上げていく必要がある。逆に商売ばかりうまくても知識が乏しいと、贋作に高額の価格をつけてしまったりする場合があり、これもうまくいかない。その両者のバランスが大切。

──学者であれば、専門の時代であったり、専門のメディアがあり、その分野で深い知識が要求されるが、オークションの場合は日本美術という部門はあるにせよ、やはり幅は広くなるということもあるのでは?

オークションのスペシャリストは、それぞれ日本美術の中でも、得意分野のようなものはあり、自分の場合は、平面、絵画だし、人によっては焼き物が得意な人もいる。ただ、人も少ないので、やはりそれこそ埴輪から現在の美術まで広く浅く知っていることは要求される。杉本博司さん、村上隆さんなどの現代アートに関しては、現代アート部門で扱われ、日本美術部門では直接には扱わないが、例えば、杉本さんは骨董品の大コレクターでもあるし、村上さんも買っている。それだけでなく、今では古美術も、当時は現代アートだったという感覚で見る必要があり、そういう意味でも現代アートはしっかり注目している。

──仕事の中でニューヨークならではのことがあれば教えてください。

オークションスペシャリストはモノも見るが、人に会わないとはじまらない。そういう意味で人と会うのがニューヨークでは本当に面白い。人種、立場いろんな人に会う。ビジネスのスケールが大きく、アートを介して、ハリウッドスターや、IT企業の創業者など、普通では出会えない人と会うことができる。例えば、ヤフー創業者のジェリー・ヤン。普通ではそんな人と会えないが、日本美術の話をするときは、あのジェリー・ヤンも一人のコレクターであるわけで、僕の意見を聞いているわけで、それを思うとすごいことだと感じる。アートが介在することで垣根が少しとれたりして、楽しい。

──ジェリー・ヤンは日本美術買うんですか?

彼の奥さんが日本人ということもあり、珠に日本美術を買う。

──差し支えなければ、他にも日本美術を買う有名人を教えてもらえませんか?

有名なところでは、オラクルの創業者のラリー・エリソン。フィデリティグループ総帥のネッド・ジョンソンなど。一見、日本美術と縁がなさそうな有名人も買っている。あとは、ジャック・ニコルソンとか、ニコラス・ケイジ等も嘗ては。

──最後の質問ですが、日本に留まっていたとしても同じ仕事をされていたと思いますか?

ニューヨークならではだと思う。日本にもオークション会社はあるが、そこで働いたことがないけれど、やはりニューヨークは世界のアートセンターであり、スケール感が違う。また、例えばクリスティーズで言えば、現代アート、古美術、家具、印象派など87分野もあり、幅広い。日本には長い歴史があるが、ニューヨークは人種のるつぼであり、幅がひろい。

──僕もアートフェアに関わったことがあるが、日本では、日本の中では、世界を相手のマーケットというものが成立しにくい。

そのあたりはこれからの日本の一つの課題だと思う。アートフェアふくめて、どうやって外国人に日本に来てもらって、お金を使ってもらうか。

──それをやっていくのは容易ではないが、例えばどういうやり方がありますかね?

一つ思うのは、日本のアートフェアにたまに行っていて、大名品のようなものが出ていないなと思う。世界中には金持ちがたくさんいて、大名品があれば、時間をかけてそれを見にくる人は確実にいる。自分の顧客の一人にスイスの企業オーナーでコレクターがいるが、屏風一枚見るために自家用ジェットでニューヨークまで来る。空港にヘリコプターを待たせて、ヘリが着くビルの下にリムジンを待たせてオークション会場まできて、15分くらいで見て、5分くらい自分に質問攻めをして、わかったと言ってその逆のルートでスイスまで帰っていって、そこまでして買わなかったりする。そこまでして見るためだけに来る。どの分野でもそうだが、世界のどこからでも見にきたいという大名品を日本でも作って、そして売っていく必要がある。日本にも世界で通用する現代アーティストは何人もいるわけだし、チャンスを秘めていると思う。

──ありがとうございます。

 

実際のインタビューの音声録音(約30分)はこちらからお聴きください。

プロフィール

山口 桂
Katsura Yamaguchi

(クリスティーズ・ニューヨーク:シニア・ヴァイス・プレジデント及び日本・韓国美術部門インターナショナル・ディレクター)

1963年東京生まれ。暁星学園を経て立教大学文学部卒。広告代理店勤務の後、’92-‘93年クリスティーズ・ロンドン及びニューヨークにて研修の後、’94年(株)クリスティーズ・ジャパン入社。同社取締役副社長を経て2000年よりクリスティーズ・ニューヨーク日本・韓国美術部ヴァイス・プレジデント/シニア・スペシャリストとして勤務。2007年より現職。

イトマンの近代絵画コレクション、麻布美術工芸館旧蔵コレクション等、数々のセールを手掛けるが、2008年3月の日本・韓国美術オークションにて、伝運慶作大日如来像(現真如苑蔵)を1430万ドルにて売却、日本古美術品としてのオークション史上世界最高額を記録し、当該作品は2009年春に重要文化財に指定された。国際浮世絵学会理事、日本陶磁協会、米国日本美術協会(JASA)会員。

執筆:
「オークションの目玉」(講談社:雑誌「セオリー」内)連載中
「浮世絵大事典」(東京堂出版)
「Designed for Pleasure」Exhibition catalogue(New York: Asia Society)
その他翻訳等多数

講座・レクチャー等:
ニューヨーク日本クラブ(レギュラー)
大分県立美術館 他多数

ブロガー:藤高晃右
2011年1月12日 / 18:26

1件のコメント

  1. [...] This post was mentioned on Twitter by flurry, 現代アートブログbot. 現代アートブログbot said: 新着ブログ: クリスティーズ日本・韓国美術部門ディレクター 山口 桂さん … http://bit.ly/i51gUu [...]

    ピンバック by Tweets that mention クリスティーズ日本・韓国美術部門ディレクター 山口 桂さん « artscape blog -- Topsy.com — 2011年1月14日 @ 16:45

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