Dialogue Tour 2010

第2回:かじことhanareの公開交流会@かじこ|Kajico[ディスカッション]

須川咲子/三宅航太郎/小森真樹2010年09月15日号

twitterでつぶやく

プレゼンテーションディスカッションレビュー開催概要

コミュニティへの開き方

小森真樹──喫茶はなれは近所の人が来たりしますか?

須川──近所の人には内緒なんです。

小森──人的なネットワークの近さでつながっていて、空間的な近さはあんまり関係ない感じなんですね。

須川──京都ってみんな自転車で5分とか10分とかの距離に住んでるから、来るのはその人たちなんですね。なのである意味物理的に近いとはいえるけれど、両隣ではないです。

小森──そういう開き方はしていないんですね。

須川──していないです。やっぱりそれをしたいし、しないと駄目だなと思って、それは次に移る理由のひとつです。次は、隣の人たちにも向けてやりたいですね。かじこもそうかもしれないけど、私たちは京都出身だから、コミュニティ系プロジェクトでまったくの部外者がある地域でなにかをつくるときの遠慮みたいなものが、いまやっているところだとないんですよね。自分達が生まれ育った街で、自分らがしたいことをやってなにが悪いという感じで、実施のために話合いを重ねていくというよりは、ちょっと暴力的な態度なんですよね。いまはそれでいいと思っているんです。ただ、今度は京都といっても、左京区から上京区というところに変わるので、その暴力性みたいなものをちょっと封印しないと駄目かなとも思っています。少しだけよそ者になるから、そこはどうなるか私が見てみたいところでもあります。やっぱり話し合いとか、わかってもらう努力は必要。ただ完璧に外部になってしまっても、それは面白さがなくなるから、バランスが重要ですよね。いままでのコミュニティだけだと広がりに欠けるし、私たちが今後関わりたいと思っているコミュニティの人たちともつながっていけないから。遠慮とか礼儀みたいな、半外部の人としての私たちが周りの人たちにどんなコミットメントをしていけるのか、Social Kitchenに移ることによって実験していきたいことです。


小森氏

アートプロジェクトではなく、新たなシステムをつくるための社会実験

三宅──一食の値段って毎回同じ設定なんですか?

須川──一緒です。600円の定食と、ソフトドリンクと、アルコールですね。イベントをやるときは、1,000円とか2,000円とか取って、飲み放題・食べ放題。それでちょっと儲けて、次に人を呼んだりとかはありますね。

三宅──僕らも、今回、2,600円ってお金を取るときに、最初はタダでいいんじゃないかって話もあって、内輪ノリで誰でも泊まれるという感じのスペースでもいいかなと思っていたんです。でも、そうなると本当に内輪しか来なくなってしまうから、ある程度、パブリック性を持たせるためには、ルールを決めていく必要があると思って、宿泊代を決めたり契約書みたいなものをつくったりしました。そうしていくうちに、どんどんパブリックになっていく感じとか、そのことで誰でもお客さんとして平等に扱えるようになる感じというのがすごくおもしろいなと思っています。

須川──お金をもらうからこそ発生することですよね。さきほど挙げた、generosityという考え方や交換をテーマにしたいろんな事例とhanareのプロジェクトを比較して考えるときに、そういう一連の流れに置けるような気もしますが、Social Kitchenの例もそうだし、ある仕組みをつくって、制度化していくことも視野にある点において、やっぱりアートプロジェクトではないと思っています。むしろ新たなシステムをつくるための社会実験と個人的には呼びたいです。

三宅──システムっていうのはおもしろいですね。hanareをやっていることをもう少しシステム化して、オープンにして、誰でもできるようにするとか、そういうことは考えますか。

須川──考えます。東京にひとつhanareスタイルのものがあるんです。多摩美術大学の学生らがやっていて、Centreっていう名前です。「hanareのreをもらいます」とかいって。関係ないくせに(笑)。彼らも毎週水曜日にやって、料理をウェブやメールで流してる。友達の松見君という精華の学生が近所で、家を解放して近いことをやっている。あと、イタリアのミラノで Radical Intention★5ていう知り合いがやっているプロジェクトがあるんですが、そこにも影響を与えています(笑)。

三宅──それってどういう広め方なんですか? たとえば僕の「おしょくじ」は、システムを回収しようとしてるけど、Centreみたいなのは、名前が違ったり暖簾分けでもないから、もうどうぞどうぞみたいな感じですよね。

須川──おしょくじっていうのはなんですか?

三宅──東京の向島で2カ月間のレジデンスをしたときのプロジェクトです。その周辺の飲食店をリサーチして、周辺の飲食店にお願いして、くじの中に、お箸をお借りして入れるんですよ。引いたくじ棒の番号と同じ札紙がもらえてそこに飲食店の情報が書いてある、引いた人がそのお店に行くきっかけをつくるというプロジェクトです。「食事のおみくじ」で「おしょくじ」と呼んでいます。僕だけではなくていろいろな人に営業マンになってもらって、向島で展開しました[図7]。それを見た人が自分の地域でもやりたいということになって、谷根千という上野のエリアでやったり、横浜の大学のゼミがやったりとか。冠はその地域になって、「谷根千おしょくじ」とか「○○おしょくじ」みたいな感じで広まっていて、いまはそのポータルサイトみたいなものをつくろうとしているんです。それはシステムを回収しようとしています。ぼくが考案して、それを自由に使ってくださいというスタンス。


7──三宅航太郎《おしょくじ》

須川──hanareはそれはないですね。「なんでもどうぞ」みたいな。名前も何でもいいし。ただ、もともと始めたときの問題意識、目的、社会性とか政治性みたいなものが、剥ぎ取られている場合はやっぱり一言二言は言いたくなるけどね。それって私らにとって一番大事な要素やから。折を見て嫌なおばさん風に言おうとは思うけど、でも日本やししょうがないかなとも思ったり。

三宅──たとえば「かじこ東京」を同じアーキテクチャでつくれると思うんですけど、僕は、やっぱり自分が管理人になって楽しみたいっていうのがあるんです。いまでもゲストハウスでやりたいんですよ。主体性のないプロジェクトをやりつつも、そういう主体性のあるようなこともやりたいなと思っています。

★4──What We Want Is Free: Generosity And Exchange In Recent Art, ed. Ted Purves という本にまとめられている。
★5──http://radicalintention.wordpress.com/

プレゼンテーションディスカッションレビュー開催概要

▲ページの先頭へ

  • Dialogue Tour 2010とは

須川咲子

1978年生まれ。hanareディレクター/ウェイトレス。ニューヨーク市立大学卒業。大学在学中から、フリーで写真展や、「Open Unive...

三宅航太郎

1982年生まれ。おもな活動に、「食事」の「おみくじ」=「おしょくじ」をつくっていくプロジェクト、顔面に建築を組み立てていく《顔面建築》、ヒ...

小森真樹

1982年生まれ。東京大学大学院博士課程。芸術社会学/ミュージアム・スタディース。論文=「日本における『アート』の登場と変遷」(2007)、...