Dialogue Tour 2010

第7回:MACとhanareと保育所設立運動@Social Kitchen[ディスカッション]

会田大也/須川咲子2011年04月01日号

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社会とつながるための〈アート〉

会田──僕は、アーティストとして活動もしているので、どうしても業界内で通用する言語を使って、理解できる人たちに向けてだけに届けるというシーンには閉塞感を感じていたんです。それで、作品があいだにあることで、アートファンではない人たちも巻き込んでコミュニケーションが進むような作品をつくるようになりました。逆にアートの定義を拡げて考えるならば、社会とのつながりと展開に着目すると、「坂東さんのやられていることこそがアートなんだ」というような見方もあるはずですよね

須川──以前、たくさん子どもを連れて対市交渉をされたとうかがいました。「京都市に子どもを連れてみんなで押しかける」なんて、パフォーマンスと呼べなくもないですよね(笑)。

坂東──おもしろいですよ。子ども連れて行ってね、しかも子どもが飴を持って、交渉相手に飴をあげるんですよ(笑)。もらわないわけにはいかないじゃないですか。だから、交渉といってもけっこういい雰囲気でしたよ。

須川──会田さんの家しかり、家を開けていろんなことをやるスペースが増えていて、新聞などでも取り上げられています。坂東さんは、いわばその先駆けというか、みんなで共同保育するために家を開いた。これは社会運動の一環として見ることもできますが、そういうことをいま、アート・プロジェクトという文脈でやってる人もいるようです。

会田──僕はMACの活動をアートだとは宣言せずにやっているけど、今回のartscapeのように第三者によって、それがアートとみなされて紹介されることはおもしろいと思っています。そういうことを考えていると、「アートとはなにか?」という問いに戻ってきてしまうんです。ひとつの定義として、「アートとは、役割を剥奪された(役に立たない)もの」という言い方も可能かもしれない。結果を出すための目的を持った創造的活動とは、ひとつ違う次元で創造性を発揮しようとしている、人間の活動とも言えるような……。

坂東──なにをもって「役に立つ/立たない」とするのかもひとつの問題です。たとえば、150年も前に、ジェームズ・クラーク・マクスウェルは電磁気学というものを確立したんですね。そのときは、このへんに電波が飛んでるなんて誰も思わなかった。でも彼は、「電波が飛んでいる」と言ったわけです。その後、だんだん電波(正確には電磁波)が飛んでることが証明されて、「目に見えないものがこの世にないものというわけではない」ということがわかってきた。それでラジオやテレビができて、そのうえにいまのIT時代が築かれてきたわけです。そういうことを考えると、いつかはそういう人間が発見したことを利用するわけです。そんな「明日、明後日に役に立たせろ」と言われたら困るという話です。


トーク風景

レクチャー、トーク……、そのさきに高くそびえ立つ山

須川──京都大学と地域に保育所をつくることをめざして共同保育所をはじめて、実際にそれを達成したということは、ただレクチャーを開いて問題を訴えかけるとか、トークイベントをやって問題を共有するとか、そういったことを超えたひとつの実践です。いまの私たちの世代にとって、勉強会もトークイベントもレクチャーも開けるけど、そこからさきの方法論が全然ないんです。政治家に話すとか、行政に対してパフォーマンスするとか、いろいろな方法があると思うのですが、そこから前へ動けない、そんなジレンマがあります。
 いま京都市では、京都会館を再整備するという話が出ていて、昨日もSocial Kitchenで、演劇関係の人たちが発起人となって、どういうふうに意見を反映させていくかという話し合いをしていたときに、この高くそびえ立つ山みたいなものを目の当たりにしました。今日お越しいただいている方のなかにも昨日の話し合い参加されていた方が何人かいるので、昨日と今日の話を聞いての感想を聞いてみたいと思います。川勝くんどうですか。彼は京都市内でRAD(Research for Architectural Domain)というスペースを運営していて、建築に関係する展示やトークを企画しています。

川勝真一──坂東さんは科学者ということもあって、データを集めそれを活動に展開しやすい環境にいらしたと想像できますが、だれもがそこまでできるとは限りません。とはいえ例えば、現在であればインターネットを介して、「こういう問題があるから、それを証明するために必要なデータや情報を手に入れる事はできないか」 「それは自分の研究分野だから、問題解決のために必要なデータを用意できるよ」 というように、活動を起こそうとしている人たちと専門家がネットワークで繋がっていくようなことができたらいいですよね。

坂東──それは大事ですね。市民がそこを見つけて情報共有できるようになれば、全然違いますよね。それをやったのが、医者の医療ネットワークだと思います。特に医療過誤の問題で、密室性、専門性、封建制……、そういうものがあるために、なかなか情報共有できなかったのですが、名古屋市の弁護士が中心になって、弁護士さんが病院とネットワークを組んでみんなが「こういう問題が起こったんだけど」ということで相談に来れるようなウェブサイトをつくりました。だから、自分一人ではわからないことがあっても、一人ではできないことがあっても、ネットワークをつくってみんなでやれば、実現できることがたくさんあるんです。自分で全部やろうとしたら大変です。

知恵(≒ART)はコピーできる

須川──去年からMACが会田家になりましたよね。奥さんが来て、娘さん三人と一緒に住んでいて。それはいつまで続くのですか。

会田──僕は去年まで仕事の関係で奥さんや娘と離れて暮らしていて、いまは奥さんが育児休業中なので一緒に住んでいます。育児休業を終えたらまた戻ってしまうので、この暮らしは今年の12月までです。まだ宣言だけして実現していませんが、今年は「アートセンターでの子育て」みたいな話をMACブログでやりたいなと思っています。僕と同じ世代のアーティストたちが子どもを産むようになってきて、アートに触れながら子育てをするとどうなるのか、気にしてる人もいると思ってサンプルになればと思っています。
 〈ART〉という言葉は「技術・テクネー」という意味を持っていますよね、僕のなかでは、〈知恵〉という言葉がすごく近いニュアンスです。つまり、〈知恵〉の結晶が作品となるかもしれないし、なにかが変わっていくアクションなり運動となるかもしれない。自分の住む場所がより良くしていくことも、ひとつ〈知恵〉の結晶として実現できるのではないかと思っています。そこで重要なのは、〈知恵〉(≒ART)のコピーが簡単にできることで、いま起きてることをなるべくレポートにして共有することを意識的にやろうとしています。「三人も子どもをつくっちゃって大丈夫?」とか、そういう話を詳らかに見せたいなと。
 MACをやることでうちにはたくさんゲストが来ますが、その環境のおかげか子どもたちは、集団保育まではいかないけれど、自然にアーティストたちと仲良くなっていきます。すごく引っ込み思案だった長女が、いまやかなり社交的な能力を身につけて、初めてうちに来た人をもてなしているのを見ると、なにかあるかもなとは思います。そういったことも含めて、生活を公開していくことになにかしらの意味はあるような予感はしています。なにか特別なことをしていると、取り立てて主張したいわけではないんです。特別天才なスターだけじゃない、あたりまえで、普通のなんでもない日常に、ちょっとずつ工夫や知恵を紛れ込ませてみる。そしてその〈知恵〉≒〈ART〉がコピーされて、人知れず各地で実践されていく。そういった活動の延長に、社会を変えていく力が潜んでいるって信じているところが、僕にはあります。
 最後になりますが、僕の家庭の様子は、藤井光くんというアーティストがやっている「SILENT-LINKAGE」というサイトでも見ることができます。少しいかついサイトですけど、各地で起きている草の根的なアートセンターやクリエイティブな活動・運動を紹介するサイトです。こういったなかに山口MACが紛れ込んでいるのも、面白いでしょ?


Maemachi Art Center (MAC) from SILENT LINKAGE on Vimeo.

[2011年2月24日、Social Kitchen(京都市)にて]

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  • Dialogue Tour 2010とは

会田大也

1976年生まれ。ミュージアムエデュケーター。東京造形大学、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)卒業。2003〜2014年山口情報芸術センタ...

須川咲子

1978年生まれ。hanareディレクター/ウェイトレス。ニューヨーク市立大学卒業。大学在学中から、フリーで写真展や、「Open Unive...