現代美術用語辞典 1.0

マニエリスム

Maniérisme
2009年01月15日掲載

1510-20年から1590年頃にかけて興ったイタリア美術の様式名だが、17世紀初頭までの全ヨーロッパに認められる動向をも指す。この様式の明確な定義は難しいが、ティントレットの極端な遠近法と明暗のコントラスト、エル・グレコの作品を特徴づける不自然な人体プロポーション、ポントルモやパルミジャニーノに見られる複雑で謎めいた主題表現、ジャンボローニャやチェリーニの彫刻における旋回するような立体構成など、共通して、奇怪ともいえる雰囲気をもっている。これらの傾向は、宗教改革、ローマの掠奪、農民戦争、新大陸の発見、コペルニクスの地動説といった時代の不安や価値観の転換に連動しており、そのためこの時期は、古典主義を完成させた盛期ルネサンスがバロックへと移行するまでの凋落期と見なされてきた。一様式たる評価を確立するのは、1956年の「ヨーロッパ・マニエリスムの勝利」展(アムステルダム)であるとされる。しかし様式名の語源である「マニエラ(maniera=手法・スタイル)」は、盛期ルネサンス時代には「優美さ」とほぼ同義の概念であった。つまりマニエリスムの作品が放つある種の異様さは「マニエラ」を追求した結果にほかならず、不可思議に見えながらも洗練された芸術としての性格を残している。今世紀の再評価はマニエリスムの奇矯な面を誇張した感が否めないが、その本来の意識を振り返るならば、ひとつの様式としての意義を超えて、古典と革新との関わりといった問題を考えさせる契機ともなるであろう。

[執筆者:坂本恭子]

現代美術用語辞典 2.0

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