アートフラッシュニュース

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シアターコモンズ ’18

最終更新日:2018年01月25日

シアターコモンズは、演劇の「共有知」を活用し、社会の「共有地」を生み出すプロジェクトです。日常生活や都市空間の中で「演劇をつかう」、すなわち演劇的な発想を活用することで、「来たるべき劇場/演劇」の形を提示することを目指しています。演劇的想像力によって、異質なものや複数の時間が交わり、日常を異化するような対話や発見をもたらす経験をアーティストとともに仕掛けていきます。

具体的には、演劇公演のみならず、レクチャー形式のパフォーマンス、創作プロセスを参加者と共有するワークショップ、異なる声が交錯する対話型イベントなどを集中的に実施します。

シアターコモンズは、港区内に拠点をもつ国際文化機関、台湾文化センター、東京ドイツ文化センター、アンスティチュ・フランセ日本、オランダ大使館とNPO法人芸術公社が実行委員会を形成し、「港区文化プログラム連携事業」として港区内を中心に展開します。

ウェブサイトより)

プログラム

ブシュラ・ハリーリ [モロッコ/ドイツ]
「テンペスト・ソサエティ」

モロッコに生まれ、フランスで学び、現在はベルリンを拠点に活躍するアーティスト、ブシュラ・ハリーリ。映像、インスタレーション、写真などのメディアを用い、自らのルーツであるアラブ・地中海世界における移動をテーマにした作品で高い評価を得てきた。今回シアターコモンズでは、ドクメンタ14にて発表され、大きな話題を呼んだ映像作品「テンペスト・ソサエティ」をアジアで初公開する。
タイトルの「テンペスト・ソサエティ」は、1970年代にフランス人学生と北アフリカ出身の労働者が、自分たちの活動を表現する場と空間として立ち上げた市民共同体「Al Assifa」(アラビア語で「嵐」)を意味する。演劇を通じた社会変革の運動でもあったこのグループの歴史を、異なるルーツを持ちながらもギリシャにて市民権を得た3人の若者とゲストたちが「復活」させる。彼らの表情、声、身体はAl Assifaのそれと二重写しとなり、舞台の上から平等や、市民共同や連帯を呼びかける。
上映に際しては、日本人アーティストやキュレーター、そして観客を交えての対話の場もひらく。

藤井光
「ピレウス/ヘテロクロニア」

前回のシアターコモンズで実施したワークショップ「日本人を演じる」を撮影した映像インスタレーションが、日産アートアワード2017を受賞するなど活躍の目覚ましい藤井光。今日の世界を席巻する分断の歴史的時間を可視化する作品群は、観るものに多くの問いを突きつける。
今回のシアターコモンズでは、藤井がギリシャで撮影・発表した新作を日本初公開する。藤井のカメラは、アテネ近郊の港、ピレウス港の時計台とそこに暮らす人々に向けられる。そこは、経済危機に瀕し、シリアやアフリカからの難民が押し寄せる欧州の最前線でもある。映画「日曜はダメよ」の主題歌「ピレウスの子供たち」のメロディ。しかし現在、その時計の針は正確な時を刻むことができない。ときに加速し、ときに遅延し、過去と現在が複雑に絡みあうピレウスの時間——。そこに生きる人々の物語は、私たちにどんなヨーロッパの「異なる時間(ヘテロクロニア)」を体感させるのだろうか。

ジュリアン・フルネ/アミカル・ド・プロダクション [フランス]
「友よ、いざ休息の時は来た」

アミカル・ド・プロダクションは、観客と問いを共有するパフォーマンスで世界的な注目を集める気鋭のコレクティブ。「プロジェクトの共同組合」と自称し、複数のアーティストがプロジェクトごとに協働するスタイルで都市や社会にコミットし続けている。彼らの演劇や上演の常識を解体していく手つきは、哲学的でありながらも軽やかな遊び心にあふれている。
今回は、アミカル・ド・プロダクション創設メンバーの一人であるジュリアン・フルネによる、3日間連続のレクチャーパフォーマンスを開催。「芸術、政治、そして私たちについての哲学的散歩」と銘打たれた一連の上演は、3部構成。いずれか一部でもトータルでも楽しめるものになっている。フルネの絶妙な語りやギター演奏、遊びのある仕掛けを通じて、その場を共有する観客の想像力を刺激する。それは「私たち/観客」と演劇の関係を新たに結び直す知的な冒険となるはずだ。


マーク・テ/ファイブ・アーツ・センター [マレーシア]
「バージョン2020:マレーシアの未来完成図、第3章」

演劇作家、映画監督、アクティヴィストらが集うマレーシア屈指のアーティスト・コレクティブ、ファイブ・アーツ・センター。その新世代の演出家マーク・テが手がけた近年の代表作「Baling」は、マレーシアの忘れられた「国家建設史」に光をあてるドキュメンタリーパフォーマンスとして世界中で賞賛を浴びた(日本ではTPAM、KYOTO EXPERIMENTにて上演)。
今回上演する彼らの最新作は、1991年にマハティール政権によって発表されたマスタープラン「ワワサン2020」が出発点。2020年までにマレーシアを経済・教育・福祉などあらゆる分野で先進国家へと発展させる計画は広く国民に共有された。それから四半世紀。当時の子供たちは大人になり、2020年は目前に迫る。「過去に描かれた未来」という、時間軸がねじ曲がった現在に生きる5人のパフォーマーたちの身体と声は、希望と失望、共同体の歴史と個人の記憶の間で揺れ動く。彼らが奏でる断片化された歌/詩は、2020年に国家イベントを控えた今の東京に生きる私たちに、どのように響くだろうか。


森村泰昌
「芸術家Mの『にっぽん、チャチャチャ!』」

1985年に自らがゴッホに扮する《肖像(ゴッホ)》を発表以来、30年以上にわたり、西洋美術史の絵画や歴史上の人物に扮するセルフポートレートを制作し、日本を代表する美術家として活躍を続ける森村泰昌。これまで活動の集大成とも言える個展「自画像の美術史―『私』と『わたし』が出会うとき」(国立国際美術館、2016)では長編映画作品を制作するなど、常に新たな挑戦を続けている。
フランス、ポンピドゥーセンター・メスとシアターコモンズからの委嘱をうけて創作される本公演は、これまで数多くの講演を行ってきた森村にとっても初のレクチャーパフォーマンスとなる。日本の戦後史および美術史、森村自身の個人史の3つが交錯する「わたし」の物語を語るのは、森村なのか、彼が憑依する偶像なのか? 森村は観客の眼差しの前で変身しながら、社会史と芸術史に侵入し、フィクションと現実の境界を攪拌するにちがいない。


萩原雄太/かもめマシーン
「しあわせな日々」

不条理演劇の劇作家サミュエル・ベケットによる代表作「しあわせな日々」。登場人物は、土に埋まった女性ウィニーと、その夫ウィリーのみ。その意味深な状況と無意味で膨大な台詞は、今日も世界中の演出家を惹きつけてやまない。同戯曲を演出し、利賀演劇人コンクール 2016にて優秀演出家賞受賞をした萩原雄太は、東京での再演にあたり、慶應義塾大学三田キャンパスにある旧ノグチ・ルームを上演会場に、新演出を試みる。
戦後間もない1951年、イサム・ノグチと谷口吉郎によってデザインされた談話室「新萬來舎」(旧ノグチ・ルーム)は、2005年、隈研吾のあらたなデザインのもとに移築された。田町のビル群の中に浮遊する不可思議な「家」を舞台に、不条理の言語と身体はどのように二重化されるのか。そのとき、その「家」に招かれた観客/傍聴者は何を目撃するのか。


小泉明郎
「私たちは未来の死者を弔う」

国家と個人、精神と身体の関係を探求し、演劇的な手法を経て映像にあぶり出すアーティスト、小泉明郎。近作「夢の儀礼─帝国は今日も歌う─」をはじめ、社会に潜む暴力やその構造を、無意識的かつ身体的な反応として映像化する演出力は、美術界のみならず演劇界からも大きな注目を集めている。
今回シアターコモンズと共同で開発するのは、個人と集団の間に生まれる「儀礼」を考察するワークショップ。個人は共同体のために命を投げ出せるのか? 小泉が長年取り組んできたヒロイズムや自己犠牲のテーマをめぐり、参加者とともに一種の「儀礼」としてのパフォーマンスを創作する。個人の身体や声が集団の身振りに統合され、再び解体されるプロセスの中で、私たちはどのように今日の社会を追体験し、批評できるだろうか。


シュウ・ジャウェイ [台湾]
「黒と白―パンダ」

2013年ヴェネチア・ビエンナーレ台湾館出展作家、ヒューゴ・ボス・アジア・アート賞ファイナリストを経て、2017年、第15回台新芸術賞グランプリを受賞し、名実ともに台湾の新世代を代表するアーティストとして注目を集めるシュウ・ジャウェイ。
今回、シアターコモンズからの委嘱を受けて創作する初のパフォーマンスは、「黒と白の色をもつ動物たち」の物語だ。例えばその代表格、パンダはなぜ世界中に輸出され、これほどまでに人々に熱愛されてきたのか? 例えば戦時中、上野や台北の動物園では何が起こっていたのか? 中国のパンダ外交、戦前・戦後の動物園政策に関する綿密なリサーチと、日本のお笑い芸人とのコラボレーションを経て生まれるコミカルなパフォーマンスは、大文字の歴史、人間中心の視点を軽やかに脱臼するはずだ。
また、今回はレクチャーパフォーマンスのほか、これまでの映像作品の展示上映も行う。


劇団アルテミス [オランダ]
「こんにちは、大気圏」

オランダを拠点に、子供たちとともに創作する演劇を開発・提案する劇団アルテミス。子供の目線で世界をフレッシュかつ大胆に捉える彼らのプロジェクトは、もはや「子供向け」という枠組を無化するほど。痛快かつラディカルな彼らの上演は、欧州各地の観客を魅了してやまない。
アジア初上陸となる今回は、小学生を対象としたワークショップを開催。自分とは遠い存在に向けて手紙を書いたり、それをもとに音を奏でたりと、子供たちの自由な想像力を広げるものになるはずだ。これは野外音楽劇「こんにちは、大気圏」の日本バージョンを創作するプロセスとして行われるほか、作曲家カインペ・デヨングを中心に日本の合唱文化や歌詞についてもリサーチし、劇の実現に向けた作業を進めていく。
ワークショップに先立ち、これまでの作品映像を交えつつ、子供たちとつくる演劇の最前線とその思想を演出家イェツェ・バーテラーンとリースベット・スィングズがレクチャーを行う。


Scene/Asia ワークショップ&アッセンブリー

Scene/Asiaは、アジアで展開する複数の「シーン」=社会状況/舞台を共有し、その知をアクティブに体験・活用するためのプラットフォームとして、ウェブ上でのオンライン・キュレーションや東南アジア各地でのリサーチを展開している。
今回シアターコモンズと連動して開催するのは、これまでの3年間の活動で蓄積された思考や対話を参加者と共有する4日間にわたる集中ワークショップおよびアッセンブリー(集会)だ。参加者は①レクチャー ②観劇(マーク・テ演出「バージョン2020:マレーシアの未来完成図、第3章」 ③ワークショップ ④アッセンブリー(集会)の4つのステップを経験しながら、アジアにおける同時代表現と向き合い、批評的な思考を構築する視座やスキルを共に学んでいく。
最終日夜に行われるScene/Asiaアッセンブリーでは、ワークショップ参加者、講師らが一同に介し、創作、キュレーション、批評など、4日間の成果を発表。そこで提出された問いを、グループディスカッションなどを通じて一般観客とともに深める。


シアターコモンズ・シンポジウム
「ワークショップは可能か?」(仮)

本シンポジウムは、シアターコモンズが目指す理念「演劇の共有地/共有知」を具現化するために考案された数々のワークショップやプロジェクトを振り返りながら、その可能性と課題についての議論をひらくものである。
第一部では、シアターコモンズ・ラボやシアターコモンズ’18で行われたプロジェクトについて、参加者の視点から、その経験を分析的に語り直してもらい、全体での共有を試みる。第二部ではそれらの批評的報告を受けて、今日「ワークショップ」と名指されているものの可能性や課題について、外部論客も交えて議論していきたい。




会場
東京都港区エリア各所
会期
2018年2月22日(木)〜3月11日(日)
入場料
コモンズパス
一般:¥4,800
学生:¥3,500
港区民:¥4,500
※コモンズパス購入方法・公演予約方法など詳細は公式ウェブサイトへ。
主催
シアターコモンズ実行委員会
共催
港区 平成29年度港区文化プログラム連携事業
慶應義塾大学アート・センター
ディレクター
相馬千秋(芸術公社)
ウェブサイト
http://theatercommons.tokyo/