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【インドネシア】インドネシアのバンブー・アーキテクチャ

阿部光葉

2018年06月01日号

この数年、東南アジアの島嶼インドネシアでは竹建築ブームが加速している。なかでも日本人に人気の高い国際的観光地バリ島は、高層過密都市のジャカルタなどに比べて竹を多用した商業建築が目立つ。その華やかな観光地の裏では、竹でできた素朴でユニークな伝統住居が現在もその息の根を絶やすことなく残っている。本稿ではダイナミックな屋根をもつ竹建築が古代から現代まで数多く現存するインドネシアを例に、現代のバンブーブームと古代から伝わる竹の知恵までを紹介したい。

東南アジアのバンブーブーム

超高級リゾートから庶民的なゲストハウス、インターナショナルスクールまでのあらゆる建物において、竹材を使用することはいわゆるエコロジーであり、いわゆるトロピカルな雰囲気を強調できるという点で人気が高い。

建築デザイン業界で国際的に竹の認知度を上げたアジア人の建築家としては、ベトナムのヴォ・チョン・ギア氏が挙げられる。彼が注目を浴びる一方で、周辺諸国のタイやインドネシアでも竹材で新しい形を探求するような現代建築が増えている。

そもそも竹の建築利用は日本の民家においても一般的なことであり、以前から小屋組や竹小舞などといった形で利用されてきた。しかし、現在の建築基準法において竹材は材料特性が定められておらず、建築構造の主要な材料として用いられる例は極めて少ない。

その一方、中国や東南アジア諸国では次世代のスチールに代わる材料として積極的に利用されるなど、持続可能な材料として改めて注目が集まっている。これらの国では竹の集成材の開発はもちろん、自然材料としての存在感を維持もしくは強調するようなかたちで伐採後の竹をそのまま利用した建築が多く見られるのが特徴だ[図1]



図1 バリ島FIVELEMENTS PURI AHIMSA ヨガスタジオの屋根


インドネシアの竹建築と建築家

インドネシアでは竹建築を専門とする建築デザイン事務所はもちろん、各都市の大御所建築家から若手建築家までが竹を使用したプロジェクトに挑戦している。

竹建築界をリードするバリ島の建築事務所IBUKUは、竹のみを利用した多層の大型建築を数多く実現させている[図2・3]

彼らは巨大な柱から小さな家具に至るまで徹底した竹利用を特徴とし、電源コードやコンセントも竹の竿(稈)内部に器用に仕込むことで、可能な限り自然材料のみを露出させようとしている。これもまた自然石や竹の中に隠れているのだが、基礎にはコンクリートを使用し、頻繁なコーティングやメンテナンスなどで20年はもつと謳っている[図4]。一般的には蟻害などで10年ももたないとされる竹建築だが、現在は長寿命化のための試行錯誤が重ねなれている。



図2 IBUKU設計のGreen School



図3 IBUKU設計のGreen village


図4 IBUKU設計のBambu Indah

竹大工が図面を読めない場合が多いことと、竹の個体差に柔軟に対応するため、わかりやすいスケッチや模型によって大工は建築家のデザインを理解し、彼らのテクニックによって竹建築が出来上がる。

もともとは貧困層のための安価な材料というイメージの強かった竹材であるが、現地人の目にも触れるレストランや小さなヴィラにも多用されることで、まだ観光地化の進んでいないローカルな村においても竹の利用が見直されている。

また、ジャワ島では個性ゆたかな若手建築家が大工の知恵を借りながら竹建築に取り組んだ例も見られる。低予算の学校建設や増改築などに採用されることが多い[図5・6]


図5 RAW Architecture設計のSchool of Alfa Omega


図6 建築事務所Akanomaでの打ち合わせ風景

民族たちの慣習住居

前章で取り上げたような現代建築には、伝統住居に共通する慣習的空間構成や土着信仰の象徴となるような役割はない。しかし基本的には昔からの工法で新しいデザインを形にしている。

東南アジアの伝統住居は主にヤシ科の植物、チガヤ、木材、竹、土などによってできている。海沿いの村々はヤシ、山間部の村々は竹というように、その地域に生息する植物を使いこなしてきた[図7・8]。それらは生活用品から祭具、建築材料に至るまで余すことなく利用され、その実や樹液は食料にもなる。


図7 インドネシアの慣習住居に竹を多用する村々の分布



図8 高さ10mほどになるスンバ島コディ地方の屋根


小屋組や柱梁などの構造材に使用することで竹の存在感を主張する現代建築とは少し異なり、先古い民族たちが住む慣習住居の多くはその空間を覆うために竹を利用してきた。

その代表的な例は網代の壁や天井である。日本のような精度こそないものの、インドネシアにおいてもそのパターンは多様であり、島嶼の各地で見られる[図9]

筒状の竹も斧の刃を無数に入れて開くと、床材や天板に使える板状のひしぎ竹となる[図10]


図9 バリ島プダワ村の網代壁のパターン



図10 ひしぎ竹製作のプロセス


そして、いくつかの地域で見られるユニークな利用例は竹瓦の屋根である。竹を3等分か2等分に割り、くぼんだ内側を雨が流れるよう上面にし、一つひとつひっかけていくのである[図11]

スラウェシ島のトラジャ族は半割にした竹を交互に重ね、非常に厚く葺くので40年近くもつといわれる[図12・13]


図11 バリ島バユン・グデ村の竹瓦屋根


図12 スラウェシ島トラジャ、ケテケスの伝統住居



図13 トラジャ族の屋根の軒部分[以上、すべて筆者撮影]


新しいかたちの探求/シンボルとしてのかたちの継承

現在インドネシアにかかわらず多くの建築家やエンジニアが、サステナブルという付加価値のついた竹素材の正と負の特性を手探りで研究している。扱いの難しい竹に対応した新しいジョイントのデザインや伐採後の防虫処理、建設後のメンテナンス法などの改良が重ねられている。この新しい技術と昔からの工法を柔軟に組み合わせて、竹建築ならではのかたちの探求が行なわれているのだ。

そして古代から継承されてきたのは象徴としてのかたちである。慣習住居のデザインは生死や祖先の世界、社会的地位、部族のアイデンティティなど、さまざまな事柄の象徴なのだ。その際に、特定の地域で豊富に生息していて建材にできる植物のひとつ、竹を上手に使いこなしてきた。

建設行為は重要な行事や慣習のひとつであり、建材として寿命の短い竹は、それに関連する技術や習わしが今日まで絶えない程度に短いスパンで交換修繕を要する。

しかし、資本主義や観光地化が島々の奥地まで浸透しつつあるいま、人と建築の関係性は大きく変化しつつある。

インドネシアのヴァナキュラー建築の将来

以上の竹を使用した建築を含め、インドネシアの現代建築や各地方のヴァナキュラー建築(ここではひとまず慣習住居をはじめとした土着建築とする)には先進国の現代建築では得られない快感と魅力がある。

まだまだ未熟だと捉えられているインドネシアの現代建築には、日本では見られない設計・建設プロセスやグローバル化されながらも地域ごとの伝統建築を意識した建築デザインが見受けられる。そして建築基準法が完全に整備されていないことによる自由度の高い設計や現場でデザインが上書きされていく即興性の高い施工プロセス、図面のない建設や増改築によるコラージュ的空間構成が、つくり手と使い手に快感をもたらす。

また特徴として、技術や予算の制限からエネルギーコストの低い材料(廃材やレンガなどのどこでも安価で平易に施工できるものや地域で生息する竹や椰子などの自然素材)が多用されることと、多様な島々で成り立つ国だからこそ重要視される地域のアイデンティティの表現方法が、ヴァナキュラー建築(の屋根)に見られることなどが挙げられる。

加えて温暖で許容力の高い風土ならではの豊かな半外部空間のデザインや、当たり前のように自然物を取り込んだデザインは伝統建築に限らずほとんどの現代建築に見られる魅力である。

そして昨今、歴史的価値のあるモダニズム建築だけでなく、ヴァナキュラー建築の再評価がインドネシア国内でも目立つようになった。2013年からは、民間と政府による土着建築をテーマとしたコンペティションが毎年盛大に開催されている。

日本の建築業界においても、東南アジアの近現代建築を考える国際組織mASEANa projectが2015年に発足し、若手研究者による東南アジア研究が取り上げられる機会も増えている。

今年のヴェネチア・ヴィエンナーレでは2014年以降2度目のインドネシア館が設置された。“The Poetics of Emptiness”という全体テーマのもと、インドネシア館はあらゆる民族の慣習住居に見られる空間のオーダーやコスモロジーを表現した。またインドネシア人で代表出展したアンドラ・マティン氏もヴァナキュラー建築の構造や寸法、マテリアルを繊細に表現し、各国代表が参加したFree Space展で特別表彰を受けた。

このインドネシア内外の再評価の波が、慣習住居の活用保存の進歩と、その生命力ある空間の現代建築への昇華へ確実に繋がることを期待したい。

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