フォーカス

マレーシア発「KLDW 2009(クアラルンプール・デザイン・ウィーク)」

中西多香

2009年04月01日号

マレーシアにおける「デザインの価値」

 国土の6割が熱帯雨林で覆われるマレーシアには、マレー系、中華系、インド系など多数の民族が共存し、マルチカルチュラルな風土を醸成している。クアラルンプールのシンボル、空から街を見下ろすようなペトロナスタワーを始め、最近の建築ブームで急増したコンテンポラリー建築と、熱帯樹木の豊かな緑が不思議にしっくりと馴染んでいるこの都市は、連日夕方になると激しい雷雨にみまわれる。加えて、この2、3年、特に悪化し、ひどいときには夜中まで続くという交通渋滞が、しばしば街の機能を停止させているようにも見える。それでも皆あまり気にする様子もなく、自分たちのペースを保っているのは、元来が穏やかな国民性のせいなのかもしれない。
 今回のイベントも、そんなお国柄が良く出た、どこかのんびりしたムードで幕を開けた。KLDWのプレジデント、イズルディン・ハニ氏は、自身もアート・ディレクターとして、クリエイティブ業界に長く従事した経験を持つ。アジアだけでなく、世界各国のデザイン・イベントを研究し、KLDWの準備に1年半をかけたという彼は、後発であるがゆえに、他の諸都市とは違うアプローチをとったという。「国際的なデザイン・イベントは、アジアでも、もはや目新しいものではありません。だからこそわたしたちは、新しいモチベーションを持つ必要があったのです。それは、このイベントを“Better(より良く)”、“Bigger(より規模の大きい)”、“Bolder(力強い)”ものにすること」。当初、マレーシアにおける国際規模のデザイン・イベントの必要性を理解するのは、海外経験のある、ほんのひとにぎりの人たちだった。社会におけるデザイナーの重要性や役割に対する認識も低く、デザインそのものに関する人々への教育の必要性を痛感していた、というイズルディン氏。2008年に、アプドゥラ首相の肝いりで、デザイン・デベロップメント・センター(DDEC)が設立されるなど、社会におけるデザイン活動の認知を推進する動きはあるものの、マレーシア政府の、ビジネス効果に対するデザインの価値の認識も、まだ十分に高いとは言えないという。「マレーシアには、優れた伝統工芸品がたくさん存在します。モノ作りの技術に、質の高いデザインを加え、商品としての付加価値を上げることが、経済効果を生み出すことにつながる。皆がこの事実に気づけば、デザイナーにとっても、活動するステージが増える。デザインは、雇用機会の増大をも誘発する重要なファクターなのです」。

マレーシアの若手デザイナーチーム「Genesis Culture」 マレーシアの若手デザイナー&デジタルアーティスト「Muid Latif」
左:マレーシアの若手デザイナーチーム「Genesis Culture」
右:マレーシアの若手デザイナー&デジタルアーティスト「Muid Latif」

  • マレーシア発「KLDW 2009(クアラルンプール・デザイン・ウィーク)」