2018年08月01日号
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水平と垂直の美学──「ウィム・クロウエル グリッドに魅せられて」展

artscape編集部

2018年02月15日号

ウィム・クロウエルはオランダ生まれ、今年90歳になるグラフィックデザイナーである。デザインのルールを「グリッド」におき、システマティックにレイアウトを決めるグリッドシステムを推進したことで知られる、まさに20世紀のデザインを切り拓いたパイオニアだ。
クロウエルの仕事の全容を紹介する国内初の個展が、現在、京都dddギャラリーで開催中である。同ギャラリーの熊本和夫氏にクロウエルの仕事と今回の展覧会についてお話を伺った。(artscape編集部)


「ウィム・クロウエル グリッドに魅せられて」展 会場風景
[Photo: Akihito Yoshida]

この展覧会を開くことになった経緯をおきかせください。

オランダ出身のデザイン界の巨匠であるにもかかわらず、いままで日本で展覧会は開かれていませんでした。2年前にご本人にオファーしたところ、快諾を得ました。全作品がご本人からアムステルダム市立美術館に寄贈されたので、同美術館のグラフィックデザイン部門のキュレーター、カロリン・フラーゼンブルグさんにキュレーションと構成を委ねるということで企画が進みました。

クロウエルさんは展示デザインからキャリアを始められて、ポスターやステーショナリー、フォントの開発、CI、切手にいたるまで、さまざまなデザインをされていますが、今回は会場が京都dddギャラリーというグラフィックデザインをテーマにした場所であることもあり、平面のデザインにフォーカスしています。また、日本での展覧会ということもあり、1970年の大阪万博オランダ館での空間デザインや、アムステルダム市立美術館での日本人アーティストの展覧会のポスターなども取り上げています。

彼が第一線のデザイナーとして活躍した半世紀以上にわたる時代は、ちょうどコンピュータが出てきた時代でした。ですので、一部の展示はプレ・コンピュータ時代、80年代以後のポスト・コンピュータ時代というエリアに分かれています。



*作品保護のため、会場内は照明を抑えています

追求したグリッドシステム


展示デザインから出発したクロウエルは、どうやってグリッドシステムに行き着いたのでしょうか。

コンピュータを使ってデザインする現代のグラフィックデザイナーにとって、グリッドシステムは常識です。しかし、彼が最初にグリッドシステムをはじめたときには、まだコンピュータがない時代でした。

彼にとってのグリッドシステム探求の始まりを象徴するのが、このアムステルダム市立美術館のポスター[図1] です。実はこの美術館の仕事がスケジュール的に非常にタイトで、デザインの指示をチームで共有するにはグリッドを用いるのがやりやすかった、ということがきっかけだったんです。彼は、グリッドを用いて、ポスターデザインだけでなく、タイポグラフィの仕事も始めました。

二次元バーコードが出始めた頃、それを手法として用いてデザインされたのがこちらのポスター[図2]です。 グリッドの縦罫を使っているということですね。


左:[図1] デザイナー展(1968) ポスター 右:[図2]オランダのビジュアルコミュニケーション展(1969) ポスター

彼の代表的な仕事として、美術館での仕事にもフォーカスされていますね。

クロウエルは、1956年から、オランダ、アイントホーヘンのファン・アッベ市立美術館のポスターとカタログのデザインをしていました。1963年からのアムステルダム市立美術館での仕事で、クロウエルは自らの手法を確立し、代表作を世に送り出しました。この展覧会では、そのポスターと冊子デザインを概観することができます。彼は、アーティストの作品そのものの写真などは極力使用せず、タイポグラフィとシンプルなレイアウトだけで、そのアーティストの作品のエッセンスを見事に表わすことに成功したのです。

いまでこそ、新しい美術館ができるときに、一人のデザイナーが責任を持って、VI、サイン、ステーショナリー、ポスターなどさまざまなデザインをトータルにデザインすることは珍しくありませんが、1960年代当時、彼がアムステルダム市立美術館でやったデザインはその先駆けだったことがよくわかります。



グリッドをベースにした展示台に並べられた「ニュー・アルファベット」が個性的です。

「ニュー・アルファベット」は、オリベッティの電子タイプライターのために開発した書体だったのですが、コンピュータが出てきたことで、後年、Macのコンピュータ書体の素材としても使われたんです。ここで開発した数字だけでオランダの切手もデザインしています。



ニュー・アルファベット(1967) カタログ

クロウエルのトータルデザイン

クロウエルのデザイン哲学についてお聞かせください。

クロウエルはデザイナーのプロフェッショナリズムについても多くの言説を残し、デザインという仕事を社会のなかで認知させるスポークスマン、次世代を育成する教育者としても活躍しました。

彼はデザインにおいて理知的で合理的、分析的なアプローチを追求し、テクロノジーと進歩の信奉者でした。デザインをただの見た目ではなく、コミュニケーションの手段として捉え、組織のコンセプトや運営方針をデザインによって伝えようという考えがあったんですね。それが、彼が共同経営者であった、さまざまな分野のデザインを統合的に扱うトータルデザインという会社に結実していたといえるでしょう。

ぜひこの展覧会で、半世紀以上たっても色あせないクロウエルのデザインの先進性を目の当たりにしていただきたいと思います。現代のデザイナーによる仕事だといわれても納得するようなデザインがここにあります。




ウィム・クロウエル / Wim Crouwel
1928年 オランダ、フローニンゲン生まれ
1946-1949 フローニンゲンの芸術学校 アカデミア・ミネルヴァで学ぶ
1951-1952 アムステルダム芸術アカデミー(IvKNO 現リートフェルト・アカデミー)で学ぶ
1952-1954 デザイン事務所エンダーベルフ勤務、展示や見本市スタンドのデザインに携わる
1956-1960 インテリアデザイナーのコー・リャン・イエとアムステルダムにデザイン事務所を設立する
1963-1980 アムステルダムのデザイン事務所 トータルデザインの共同設立者、パートナーとなる
1980-1982 デルフト工科大学のインダストリアルデザイン学部の講師
1980-1985 トータルデザインのアドバイザー
1982-1985 デルフト工科大学の教授、インダストリアルデザイン学部長
1985-1993 ロッテルダムのボイスマン・ファン・ベーニンゲン美術館の館長
1987-1993 ロッテルダムのエラスムス大学の芸術文化学部の寄付基金教授
1994-2010 アムステルダムを拠点にフリーランスのデザイナーとして活動

ウィム・クロウエル グリッドに魅せられて

会期:2017年12月14日(木)〜3月17日(土)
会場:京都dddギャラリー
京都市右京区太秦上刑部町10/Tel. 075-871-1480

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