キュレーターズノート

赤崎水曜日郵便局/九州芸文館、28ZAKI海浜博覧祭

坂本顕子(熊本市現代美術館)

2013年07月15日号

 熊本の県南の町に、海の上に建つ小学校があることをご存じだろうか。惜しくも2010年に閉校になってしまったその旧赤崎小学校は、校庭を確保するために校舎部分が海側に張りだした設計で、休み時間になると子どもたちは釣りや飛び込みを楽しんだという。そんな旧赤崎小学校をテーマにしたアートプロジェクトが今夏行なわれている。

赤崎水曜日郵便局


海の上にある旧赤崎小学校
撮影=森賢一

 プロジェクトは「赤崎水曜日郵便局」。旧赤崎小のある葦北郡津奈木町のつなぎ美術館の主催で、ディレクターに熊本出身の映画監督・遠山昇司を迎え、アーティストの五十嵐靖晃、加藤笑平、玉井夕海らが参加する。遠山が描いたシナリオはこうだ。旧赤崎小自体を郵便局に見立て、そこに全国の人々から「ある水曜日の出来事」を記した手紙が送られてくる。スタッフはそれを無作為に交換し別の人の手に「誰かの水曜日」を送り届ける……。その手紙は地元の子どもたちによるものや、または遠く離れた場所で書かれたものもあるだろう。それらを地域住民が朗読をし、毎週水曜日にラジオ(ラジオNIKKEI)をとおして全国に放送される。
 おそらくほとんどの人がその姿を見たことがない旧赤崎小、そして手紙やラジオという、文字や音声による限られたオールドなメディアをとおして、この世界のどこかでつながる隣人たちの姿を想像することで、私たちは自らの存在を逆に照射していくことになるのだろう。
 このつなぎ美術館は、本プロジェクトのプロデューサーを務める楠本智郎学芸員1名が切り盛りするとても小さな美術館だが、積極的に地域に展開するアートプロジェクトを2008年から実施している。これまで“レインボーマン”こと岡山直之、木工家の上妻利弘、彫刻家の勝野眞言、アーティストの今田淳子、デザイナーの松永壮など、地域の作家を積極的に起用してきたほか、熊本県立劇場と共同で、ダンサー/振付家の森下真樹を招聘し、地域でおやじダンサーズを結成し、本気のパフォーマンスに取り組んだ。本年度は熊本に限らず幅広く作家に声をかけてプロジェクトを展開し、学芸員という仕事の限りない可能性を見せてくれている。その姿勢にブレがないのは、水俣病の被害にも苦しみ、人口約4,800人の小さな自治体の限られた枠のなかで、「美術館がやるべきこと」がくっきりと浮かび上がっているからにほかならない。
 このプロジェクトは、アーティストたちによって、今後も展示やワークショップなどが地域で行なわれる。また、8月24日、25日には倉敷の大原美術館で行なわれるチルドレンズ・アート・ミュージアムに出張所を臨時開設して、玉井夕海による手紙を書くワークショップが実施予定である。9月7日〜12月1日にかけては、赤崎水曜日郵便局開局記念展覧会「一年目の消息──語りかけることができる『君』」として、クワクボリョウタ、下道基行、淺井裕介、古家優里を迎えて新作を展示する。
 さらにダメ押しに津奈木を訪れてみたくなる、お得な情報を追記しよう。美術館そばを通る、肥薩おれんじ鉄道には、今春から「観光列車おれんじ食堂」が運行している。九州西海岸の美しい海を眺めながら熊本・鹿児島の豊かで新鮮な食材を楽しめるこの列車に乗ってみるのもお奨めだ。
 まずは、一番近い水曜日がやってきたら、このサイトを開いてみて欲しい(水曜日しか開かないので注意)。そこから熊本の海の上の郵便局にむけて、あなたの水曜日を送っていただければ幸いである。


スソアキコデザインの郵便局員帽をかぶった玉井夕海と郵便受け


郵便局特製の封筒

赤崎水曜日郵便局

URL=http://akasaki-wed-post.jp/

赤崎水曜日郵便局 in 大原美術館チルドレンズ・アート・ミュージアム2013

会場:大原美術館
岡山県倉敷市中央1-1-15/Tel. 086-422-0005
会期:2013年8月24日(土)〜25日(日)

赤崎水曜日郵便局開局記念展覧会「一年目の消息──語りかけることができる『君』」

会場:つなぎ美術館
熊本県葦北郡津奈木町岩城494/Tel. 0966-61-2222
会期:2013年9月7日(土)〜12月1日(日)

学芸員レポート

 熊本は日常生活に車が欠かせない土地柄だが、最近は鉄道を利用する機会も増え、すっかりにわか愛好家と化している。九州には鹿児島—熊本—佐賀—福岡を結ぶ背骨のように、JR鹿児島本線が通っているが、たまたま二つの展示が、同じ鹿児島本線上で行なわれていたのをいいことに、久しぶりに各駅停車のローカル線に乗り込んだ。

九州芸文館

 ひとつ目の目的地は、筑後船小屋駅。在来線の脇に立派な新幹線駅が建設され、その横に広がる巨大な広域公園の中にオープンしたのが九州芸文館だ。隈研吾の設計監修で福岡県が4月27日にオープンさせたばかりの同館は、本館の展示室、工房、カフェ、会議室などが備えられ、開館記念展として福岡県立美術館の所蔵品展「はじまりはここから」が行なわれていた。
 福岡県は、福岡、北九州、筑豊、筑後と大きく四つの地域に分けられ、県美や市美のある「福岡」、市立美術館本館、分館のある「北九州」、“ちくネット”と呼ばれる美術館ネットワーク活動の盛んな田川市美術館、嘉麻市織田廣喜美術館、直方谷尾美術館のある「筑豊」と、各地域が拠点となる文化施設を有しているなかで、優れたコレクションで全国的に知られる久留米の石橋美術館や大川市立清力美術館、立花家史料館等があるものの、「筑後」地域において、公立の大規模な展示や工房などの施設が整備されるのは初めてのことである。
 所蔵品展は、ご当地ゆかりの青木繁や、高島野十郎、坂本繁二郎、児島善三郎に柿右衛門など、福岡県美の名品40点が揃い、作品を見ながら八女茶をいただいたくイベントや、“絵を食べる”クッキー作りのワークショップなど、より身近な催しが企画されているが、同館には3名の学芸スタッフが配置され、今後は独自の展示が計画されていくそうである。
 そこで、やはりもっとも気になるのは来館者数。人口150万人を突破した勢いのある福岡市のベッドタウンの新幹線駅としてのポテンシャルは十分にあるが、筑後地域の人口はその約半分にすぎない。いかに定住人口を増やしていくかが課題だが、それに関連して行なわれる「ちくご移住計画2013アーティスト編」は、2カ月間筑後にレジデンスし、久留米絣をテーマにした作品を制作するアーティストを1名選定し、芸文館で展示を行なうというプロジェクトである。息の長い取り組みであるが、今後も注目を続けたい。


九州芸文館、外観

福岡県立美術館コレクション展「はじまりはここから」

会場:九州芸文館
筑後市大字津島1131/Tel. 0942-52-6435
会期:2013年4月27日(土)〜6月16日(日)

28ZAKI海浜博覧祭

 再び鹿児島本線に乗り、降り立ったのは福岡県福津市の福間駅。そこから海へ向かうバスに乗り終点間近の海岸沿いに会場の旧玉乃井旅館はある。築100年というこの古い割烹旅館で「28ZAKI(つやざき)海浜博覧祭」は行なわれていた。オーナーの安部文範氏によって映画、音楽、書籍などが重層的にアーカイブされた建物は、週末は音楽カフェになり、これまでにも津屋崎現代美術展などさまざまな企画が行なわれてきた、知る人ぞ知るスペースだ。
 今回は、福岡出身の若手アーティスト(友清ちさと、森健太郎)の二人が企画した、大木裕之らを含む7名による意欲的な企画展だ。「時間が停止したような」という表現は陳腐だが、思わずそう言わせてしまうような圧巻の空間には、若い作家たちを受け止める懐の広さがある。ちょうど展示を見にいらしていた、御年92歳の元九州派の斎藤秀三郎氏(斎藤氏については過去に福岡市美術館の山口洋三氏も書いておられました)と楽しくアート談義をさせていただくと、ふと建物の空間そのものと対話をしているような気分になる。
 この玉乃井旅館と九州芸文館との100年の時差に、少しの戸惑いと希望を感じながら、駅へと戻るバスに飛び乗った。


旧玉乃井旅館での飯山由貴作品

28ZAKI海浜博覧祭

会場:旧玉乃井旅館
福岡県福津市津屋崎4-1-13
会期:2013年6月15日(土)〜6月23日(日)

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