キュレーターズノート

日本画の現在──20年後の「横の会」展

伊藤匡(福島県立美術館)

2013年09月01日号

 いま、横の会を覚えている人は、どれほどいるだろうか。
 横の会は、1983年に若手の日本画家たちが立ち上げたグループである。その結成趣意書には、「私たちに共通するものは、自分たちのより良い発表の場を持ちたいということと、現代日本画のおかれている状況、自身の仕事の反省と危機意識です」とあるように、大画面の作品を自由に発表できるグループ展を1984年から毎年開催した。

 創設当初のメンバーは30代後半から40代前半の19名で、日展、院展、創画会などの美術団体に所属していた作家もあり、無所属の作家もいた。各作家は所属団体に籍を置きながら、横の会に参加した。団体の枠や師弟関係の圧力が強いといわれる日本画の世界では、久しぶりの新たな動きとして、驚きと期待をもって受け止められたと記憶する。当時の横の会展は、絵の傾向には全然まとまりがなく、ひとつのグループとしての指向性は感じられなかったが、一方、制作への情熱や強い表現意欲を感じる作品が多く、熱気を感じる展覧会だったという印象がある。


新潟市新津美術館、外観


「横の会」展で使用された垂れ幕が美術館エントランスを飾る

 横の会展は10回を数え、1993年に解散した。それは当初の申し合わせに従ったものだった。そして、今年は解散から20年になることから、メンバーたちの最近の作品を紹介する趣旨で企画されたのが、本展である。会場には14人の作家の43点が展示されている。物故者以外の作品は、最近5年以内に制作されたものだ。作品の傾向を概観すれば、横の会時代とあまり変わっていない作家もいれば、大きく変貌している作品もある。
 創設当時30代から40代の若手だった作家たちも老境に差し掛かっている。旺盛な制作活動を続けている人もいれば、制作から離れている人もいる。本展の企画者である横山秀樹・新津市美術館長によれば、「現存の全メンバーに声をかけたが、何人かは出品が適わなかった」という。それでも、しばらく筆を執っていなかった作家が久しぶりに出品し、長いあいだ暖めていた風景画の構想を、この展覧会を契機に制作したという話を聞くと、展覧会は作家にとって制作の契機となることをあたらめて感じる。なかでは、暗い冬の荒海を水墨で描いた箱崎睦昌《佐渡》、きらびやかな装飾的表現によって独自の宇宙観を表現する仲山計介《HATERU-MA》、鳥瞰的な風景画に挑戦した青山亘幹《トレド》などが目を引く。
 横の会もまた、戦後日本画の歴史の事項の仲間入りをしたと実感した展覧会だった。


展覧会場入口


展示室内

日本画の現在──20年後の「横の会」展

会期:2013年8月3日(土)〜10月14日(月)
会場:新潟市新津美術館
新潟県新潟市秋葉区蒲ケ沢109-1/Tel. 0250-25-1300

巡回展

会期:2013年11月29日(金)〜2014年1月19日(日)
会場:富山県水墨美術館
富山県富山市五福777/Tel. 076-431-3719

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