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学芸員レポート

はじまりの美術館「ほくほく東北」展

伊藤匡(福島県立美術館)2015年03月01日号

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 福島県猪苗代町は会津磐梯山と猪苗代湖に挟まれた風光明媚な観光地である。夏は避暑地だが冬は豪雪地で地吹雪地帯でもある。私が訪れた日は冬晴れだったので、町の人たちは「雪かたし」(会津では「雪かき」ではなく「雪かたし」という)に出ていた。

 この町の中心部に、昨年6月に「はじまりの美術館」が開館した。郡山市内の社会福祉法人が運営する美術館だ。開館の趣旨は「アール・ブリュットをはじめとする『人の表現が持つ力』や、コミュニティの『人のつながりから生まれる豊かさ』に視点を置き、さまざまな展覧会の場となり、地域の方による活動の起点となる、『誰もが集える場所』となります。それにより、誰もが様々な関係を楽しみながら、主体性を持って生きることのできる社会の創造を目標とします」(同館ウェブサイト)とある。同館館長の岡部兼芳氏によれば、最初から美術館の設立をめざしていたわけではなく、当初は施設にいる人たちが作品を制作できる場を捜していたようで、美術館を作品展示だけではなく、人々が集うコミュニティの場となることをめざしているという。
 美術館の建物は、猪苗代町の中心部にある明治時代の酒蔵を改修したものだ。「十八間蔵」の名前が示すように長大である。黒々とした太い梁が圧巻だ。建物の三分の二が展示スペース、三分の一がカフェと多目的に使える空間になっている。展示スペースには靴を脱いで入る。床材には無垢材が使われ、床暖房もされているので暖かく気持ちがよい。展示スペース内部に、コンクリートブロックでできた小部屋が設置されて、複雑な展示空間となっている。


左=猪苗代町の街並み。奥に見えるのが磐梯山
右=雪に埋もれる、はじまりの美術館の外観

 2月に始まった企画展「ほくほく東北展」を見る。
 展示をぐるりと回ってみると、まず張子のシロクマに目が引き寄せられる。毛並みまで再現されているリアルなものだ。これは郷土玩具の張子を製作販売している橋本彰一の制作で、いわばプロの手になるものだ。奥には土屋康一のペン画、右手の第一の小部屋にはスガノサカエのダンボールにアクリル絵具や蛍光塗料で描いた絵と、森田梢のミクストメディアの平面作品と続く。展示室中央部の壁面には、tttttan(からみほぐし研究所)の書のようにみえる線描画。その左の壁面には佐藤ブライアン勝彦作の女優ジェーン・バーキンのサイン入りブルーシート製ハンドバッグが、スポットライトを浴びている。右手の壁から天井に向けて生い茂っているように見えるのは、「旅する花屋ハヤシラボ」の屋号でも活躍する史緒による花を主素材とするインスタレーションだ。展示室中央部に第二の小部屋があり、中では1921年生まれの坂本三次郎が、施設の庭の一角で石や木などを地面に置く行為を施設の職員が撮影したスライドが流されている。最奥部の広々とした空間には、千葉奈穂子の日光写真と佐々木早苗の刺子による手芸の作品やペン画が展示されている。
 展示点数は約50点。出品作家は10組。世代は二十代から九十を超える人までと幅広い。福島県が半分ほど、ほかに宮城、山形、岩手の作家たちで、健常者も障がい者もいる。独学の人が多いものの美術大学で学んだ人もいて、とくにアール・ブリュットという枠にしばられているわけでもないようだ。企画のまとまりとしては、もっと焦点を絞る手法もあるだろうが、あえて緩やかに総花的な方向を選んでいるのかもしれない。東北の各地で、冬の雪や寒さに耐えながら、制作に励む人たちを紹介し、応援する企画というところだろうか。


橋本彰一×片山正道×NIGO®《Life size polar bear in papier mache》2011


tttttan(からみほぐし研究所)《うみ》2015


史緒《無能》2015


坂本三次郎《無題》2011-12

 岡部館長は「冬はお客様が一桁の日もあります」と苦笑する。豪雪地だから、毎朝美術館入口までの道を除雪するだけでも一仕事だ。それでも当面は通年開館するという。外は大雪でも、館内では制作者とアートが好きな人たちが、ていねいに入れられたコーヒーを飲みながら談話する、そんな場面が浮かぶ。障がい者の作品を発表できる場は全国的にも少ないし、福島県内ではほとんどないのが現状である。はじまりの美術館への期待は大きいといえるだろう。

ほくほく東北──アートでつなぐ、対話が芽吹く

会期:2015年2月7日(土)〜3月30日(月)
会場:はじまりの美術館
福島県耶麻郡猪苗代町字新町4873/Tel. 0242-62-3454

関連事業
「旅する花屋ハヤシラボ移動販売」

日時:2015年3月15日(日)、10:00〜17:00

森田梢による造形ワークショップ

日時:2015年3月21日(土)、14:00〜16:00

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伊藤匡

1956年生まれ。福島県立美術館学芸員。

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