2017年11月15日号
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キュレーターズノート

東根市 まなびあテラス

伊藤匡(福島県立美術館)2017年03月01日号

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 昨年11月、山形県に新しい文化施設、東根市公益文化施設まなびあテラスがオープンした。東根市は、県庁所在地である山形市から北へ約20キロの位置にある。人口は48,000人で、山形県内では隣の天童市とともに人口が増加している自治体である。特産は全国一の収穫量を誇るサクランボで、山形新幹線の駅名にも「さくらんぼ東根」の名前が冠せられる。立地は駅から約1キロ、市役所と高校が隣接し、向側には大型ショッピングセンターがある。アクセスも良く、人が集まりやすい好立地である。


左:まなびあテラス外観 右:エントランスホール


図書館・美術館によるまちおこし


 この施設の設置、運営はPFI(Private Finance Initiative)方式で行なわれる。施設の設計、建築、電気設備、施設管理、清掃業務、図書納入等に関わる民間の法人が共同で運営会社を組織し、東根市との間で20年間の業務委託契約を結んでいる。施設は、図書館と美術館、それに市民活動支援センターの機能がある。

 建物は、来館者が利用する部分は基本的に平屋建てである。中央のエントランスをはさんで、図書館部門と美術館部門が左右に配置されている。館の運営方針は、図書館や美術館が個別に提供するサービスだけではなく、住民の憩いの場・交流の場、情報の収集発信など、地域コミュニティの中心的な役割を重視している。「図書館・美術館によるまちおこし」を謳い、複合施設の多機能を活かして相乗的な連携の効果をめざすとしている。

 来館者数は館側の期待以上で、開館から3ヶ月で10万人を超えたという。平日で千人、土日は2千人近い利用者数である。図書館の評価指標である利用者数、貸出冊数、登録者数等はいずれも人口規模をはるかに超えるよい数字を示しているとのことだ。

 美術館部門には、特別展示室と市民ギャラリー、それにアトリエがある。基本的に作品収蔵はしないが、一時保管庫的な使用を前提とした収蔵庫も備えている。取材した日には、特別展示室で東根市が所蔵する地域ゆかりの洋画家の作品が展示され、市民ギャラリーでは若手作家二人のアートユニットTOCHKA(トーチカ)の企画展「TOCHKA Playground!」が開催されていた。ペンライトを使ったインタラクティブな作品「PiKAPiKA」など、観覧者が参加できる作品を展示している。


市民ギャラリーでの「TOCHKA Playground!」展


図書館と美術館の空間の思想の違い


 取材したのは2月下旬の日曜日の午後で、雪国山形としては珍しい晴天だった。来館者は確かに多く、しかも小学生から学生、小さな子供連れの家族、高齢者まで各年代に亘っていた。図書館はほぼ満席だったが、美術館の二つの展示に入っていく人は、入館者の十分の一程度に見えた。館内の利用は図書館だけではなく美術館の展覧会も観覧無料となっているから、料金面で敷居が高いわけではない。館としては、図書館の来館者に美術への興味関心をもってほしいというねらいがある。その戦略が成功するためには、展示やワークショップなどが魅力的であることがまず重要であるが、さらに来館者の興味関心を引き出すナビゲーター、インストラクター的な役割も必要になるだろう。
 同じ施設内にある図書館と美術館を見比べてみて、その空間作りの思想の違いを改めて感じた。同館の図書館部門は、いかに来館者が居心地良く利用できるかという点に気を配っている。書架の高さを人の背丈より低くして本を取りやすくし、書架と書架の間の通路の幅を広くし、明るく開放的な空間作りを意図している。飲み物の持ち込みを許可し、さらに雑誌閲覧コーナーでは、隣のレストランにコーヒーなどを注文して飲むこともできる。一口に言えば、「人」優先の作りである。


左:図書館ラウンジから飲み物注文口 右:図書館内部


 一方、美術館部門の展示室は、外光はもちろん入らず、壁の多い閉鎖的な空間で、暗い印象が否めない。こちらは展示作品という「物」を優先した作りである。芸術作品や文化財は人類共有の財産であり良好に保存しなければならないから、「物」を重視するのは当然なのだが、それだけでは十分ではない。展示室は、作品とそれを見る人がいて初めて成り立つ空間であり、見る人の快適さや見やすさの追求も、もっと積極的であって良い。
 これは、大げさに言えば、現代日本の図書館と美術館の思想の違いがここに端的に現われているとみるべきだろう。見やすさに関わりの深い照明やガラスケースの分野では、製品の改良が進み、照度は低いが見やすい照明、ほとんど映り込みのないガラスなどが実用化されている。経費がかかるからそう簡単に導入することはできないのだが、新規に建築する場合には、展示室内で「物」の保存と「人」の快適さが両立する空間作りの重要性を、考えさせられた。

東根市公益文化施設 まなびあテラス 「TOCHKA Playground!」展

会期:2017年1月21日(土)〜3月12日(日)
山形県東根市中央南1丁目7-3/Tel. 0237-53-0223

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伊藤匡

1956年生まれ。福島県立美術館学芸員。

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