2018年11月15日号
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キュレーターズノート

高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.07/つながりかえる夏──下道基行、山城大督、藤浩志、千葉尚実

毛利直子(高松市美術館)

2018年10月15日号

初回の瀬戸内国際芸術祭を1年後に控えた2009年、高松市美術館でアニュアル形式の現代美術のグループ展「高松コンテンポラリーアート・アニュアル」開催が実現した。「戦後日本の現代美術」を収集方針の柱に掲げ系統的にコレクション活動をしていたものの、若手美術家の自主企画展が叶わない時代が長かったため、1回でも多く続けたいと初回は「vol.00」で始まった。よって、今回紹介する「vol.07」は8回目、そして「開館30周年」を冠に初の夏開催となった。30周年、夏休みとあって、世代を越えた幅広い層と美術(館)を多方面に“つなげ” “ひらき” “ふりかえり”たいと考え、下道基行(1978-、愛知在住)、山城大督(1983-、愛知在住)、藤浩志(1960-、秋田在住)、千葉尚実(1979-、香川在住)の4人に参加を求めた。

下道基行──新作《津波石》:境界の渚に連れ立ち、時空をつなぐ

高松市美術館の開館記念日である8月6日は、1945年広島に原子爆弾が投下され未曾有の悲劇に見舞われた日でもあり、毎年、祝い事と鎮魂が交じり合う。本展は、下道の代表作《torii》で始まる。植民地時代に建てられ現在も国境の外側に残るさまざまな鳥居の姿を見つめたこのシリーズでは、忘れかけていた歴史を垣間見、下道のまなざしによって鑑賞者の意識が揺さぶられる。太平洋戦争中に日本が占領していた広い地域に建立された神社の鳥居は、横倒しされたまま市民の憩いのベンチになったり、鬱蒼としたジャングルのなかにひっそり佇んだり、破壊されいまは存在しなかったりと、その後の半生は千差万別である。建立本来の意図から自由になり変容した鳥居の在りようを丹念にたどって、美術館で白いフレームに納められた《torii》に、私たちは過去の記憶を慎ましく共有するとともに、国家民族を越えた死者への鎮魂といま生きる者への慈しみの情を交差させる。

私のリクエストに応えての旧作《torii》展示と同時に、さらに広い展示スペースを下道は新作《津波石》で挑戦してくれた。津波によって海底から姿を露わにした巨岩を定点観測した映像4点が、天井から吊り下げられた四つのスクリーンに投影された。250年前から数千年前に津波によって運ばれた巨石たちは、いまは学習の場や鳥たちのコロニーや信仰の対象とさまざまな姿を見せている。ループ再生される各映像は、会場で静かな時を刻む。その寄せては返す穏やかな波のような数分間の向こうには、巨石を打ち上げるほどの自然の猛威が横たわっている。不動の津波石が中心に据えられ、色彩が抜かれたモノクロ映像は額装されたスクリーンのなかに納まり存在感を放っていた。その穿った額窓から見るモノリス的な巨石の姿は、漂着時、それ以降の在りよう、下道の撮影時、そして鑑賞時の現在が入れ子式となり、観覧者を過去と現在、動と静、聖と俗といった境界の渚に連れ立ち、時空をつないでみせるのである。

下道基行《津波石》(2015-)[撮影:青地大輔]

この《津波石》シリーズは、来年2019年の第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館で、服部浩之氏キュレーター、下道ほか3人(安野太郎氏、石倉敏明氏、能作文徳氏)により、テーマ「宇宙の卵」としてさらなる展開が期待されるものだ。

山城大督──《トーキング・ライツ》:喪失の記憶、そして思慕の念

2016年の「六本木クロッシング──僕の身体、あなたの声」(森美術館)で山城大督の《トーキング・ライツ》を初見したとき、何だか説明のつかない気持ちに襲われ、何度も繰り返し作品を見直した。インスタレーションとも(有人公演ではないので)舞台とも言えないその異彩さに魅了され、今回高松での完全再展示を依頼したそれは、当館において展示される、照明・音楽・映像・動きなどが一体となる総合的なアートの記念すべき第1号作品となった。

山城大督《トーキング・ライツ》(2016)[撮影:青地大輔]

「内容はよくわからないけれど感情だけ動いていくような作品をつくりたい」と山城はプランを練り、文字コンテを重ねたという。遊園地のアトラクションハウスをも参考につくられた14分間は、まるで一本の映画を見るように飽きさせない編集構成である。主人公になりえないモノたち(しゃもじや農具など)の擬人化は意表を突くもので、そのギャップがチャーミングだ。しかしながら、ひとたび東日本大震災の影に気づかされると、この空間自体が帰宅困難区域の家屋の一室で、台上のモノたちは家人の帰りを待ちわび、おしゃべりに興じているようにも映る。さらに中央に置かれた蛍光色の液体が入ったガラス壺にメルトダウンした炉心が重なり、不気味さを募らせもする。

山城大督《トーキング・ライツ》(2016)[撮影:青地大輔]

高松での再展示にあたり、見せ方にこだわる山城は細心の注意を払い、作品へと導く「間あい」(=廊下)をつくった。また作品空間に正面性を持たさず、自由に観ることを望んだ。観客が舞台と向き合う劇場型とは異なり、四方を動きつつ作品を観るのである。夏開催での再展示だったせいだろうか、本作品を囲み観入る鑑賞者の姿に接し、あるときからこのステージ台が盆踊りの櫓(やぐら)のように思われ始めた。作品の終盤、「まわれ、まわれ、まわれ!」と声が響き渡り、ステージ上のモノたちが勢いよく回る。そして、プラネタリウムのように台に投影された銀河が緩やかに回り、やがて彼方へと消えていく。火を焚いて死者を迎える盆踊りのごとく、本作品の周りに集う人々は、光を道しるべに紡ぎ出される会話にどこか懐かしい感情を抱きながら、まだ見ぬ誰かに思いを馳せる。大小はあるものの役割にヒエラルキーはなく押し並べて平等に扱われくるくる回るモノたちとともに弧を描き、14分間のリアルのあわいを経験する。やや不格好でそれ自体不完全なモノたちの、違和感をともなう特異な動きとシーン展開の《トーキング・ライツ》を介して、喪失の記憶や思慕の念へと誘われたことだろう。

藤浩志──思い出のはるか彼方の人類誕生時へと

本展のタイトル「つながりかえる」の「かえる」は、「帰る」「変える」「返る」「換える」「孵る」などさまざまな漢字が当てられ、それによりイメージは広がる。実のところ、このタイトルは、出展作家の藤浩志によるものだ。藤が最初に高松市美術館で作品発表したのは1994年。この年、渇水に苦しんだ高松とは対照的に、当時彼が拠点を置いていた鹿児島での大水害から浮上した石橋撤去・保存問題をテーマに「カエルのキャンペーン」という複数の屋台展示とライブパフォーマンスを行なった。その10年後の2004年、当館エントランスホールで草創期の「Kaekko(かえっこ)」を行なったとき、藤がタイトリングしたのが「つながりかえる」。「カエル」と「(おもちゃを)換える」と「(高松に)帰る(=再び戻る)」を引っ掛けたものだった。

茶目っ気たっぷりの藤命名「つながりかえる」を再び使った今回、三度(みたび)藤につながり帰って来てほしいと強く思い、「Kaekko(かえっこ)」というシステムから派生し、使われなくなったおもちゃによるインスタレーション展示を依頼した。高松市内の高校生や中学生らを、藤は展示のお手伝いではなく、ともに協働する「展示パートナー」として招いた。運び込まれた大量のおもちゃの分類仕分けという気が遠くなる作業のかたわら、個人またはグループによるオブジェ制作のワークショップが並走し、現場で出来上がった作品はインスタレーションのなかに組み入れられた。また、展示されたおもちゃを触って遊ぶエリアの提案もあった。管理上の問題もあって「基本触らない」としたが、藤のインスタレーションは鑑賞者が関わることで予期せぬ展開あるいはエラーさえ待っているのだろう。その運用方法(オペレーション)は美術館あるいは鑑賞者に委ねられており、「Kaekko(かえっこ)」同様のアメーバ的変化を彼は厭わない。

本作品すべてのパーツは、半世紀にわたる人気者「ドラえもん」はじめ、ありとあらゆるおもちゃ。100年ほど前に誕生した合成樹脂(プラスチック)でできている。その原料石油は、タイトル《1億5000万年前から受け継がれる》の通り太古の生物遺骸であり、個人の至近な思い出のはるか彼方に時をつないでしまう藤の空間は圧倒的である一方、言いようのない物悲しさも帯びている。

藤浩志《1億5000万年前から受け継がれる》(2018)[撮影:青地大輔]

千葉尚実──祖霊信仰、ひとときの地場

テーマを「つながりかえる」に据えると、すんなり香川在住の千葉尚実に結びついた。彼女は創造都市・高松が推進する「高松市障がい者アートリンク事業」でアーティストとして障がい者支援施設に5年通っている。2016年のリニューアルオープンにあたり、「開かれた美術館」として子どものためのアートスペース「こども+(プラス)」を当館は新設した。ネーミングの「+(プラス)」には、子どもに限らず、障がい者・高齢者・放課後の学生などさまざまな市民などにプラットフォームとして美術館を利用してほしいとの願いが込められた。今回、日常的に障がい者と丁寧に向き合っている千葉との協働による作品展示により、障がいを持つ人々やその関係者と美術館と鑑賞者らがつながる機会を期待した。はたして、アートリンクで生まれた作品に対して鑑賞者が銘々にタイトリングしたキャプションが壁いっぱいに貼られる様子に、ひとときではあるものの相互間の交流を見ることができた。

高松市障がい者アートリンク事業 障害者支援施設ウインドヒル×千葉尚実《絵にタイトルをつけてみよう》[撮影:青地大輔]

さて、千葉が今回展示した高校時代の同級生305人の肖像画《卒業アルバムから》。丹念に見ていくと一人ひとりの個性が立ち上がってくるが、展覧会場で圧倒的な集合体として目にした瞬間は、集団遺影を前にしたような居心地の悪さが先立つ。しかも、新作について千葉は「お墓のようなものをつくる」と言い準備を進めていた。実際、会場には1,000個以上の石が床に置かれた。《おひとつ積んでみませんか?》とのタイトルに誘われ、鑑賞者は石を積んでいる。その行為によって、神社や山頂といった神聖な場所を追体験する者や、冥土に至る途中にあると信じられている「賽の河原」へとトリップする者もいる。一人の死者に二つの墓をつくる「両墓制」やお盆に位牌を背負い死者とともに輪になって一緒に踊るという瀬戸内の島の風習などに興味を惹かれる千葉は、会期中お盆を迎えた展覧会場に、祖霊信仰の地場を一時的に生み出したとも言える。

千葉尚実《おひとつ積んでみませんか?》(2018/手前)、《卒業アルバムから》(2013−18/壁面)[撮影:青地大輔]

また、展示の最後には、赤いテープを切り貼りした鳥居の向こうに、千葉が書いてくしゃくしゃに置かれたおみくじを、観覧者が小鈴を鳴らして引くという簡易神社が設えられた。この遊園地のアトラクション的な遊び心が、千葉展示のただならぬ情景を深刻さだけに陥らせないものにしていた。期せずして、本展は下道の鳥居を入り口に、千葉の鳥居を出口として循環し「つながりかえった」のである。

千葉尚実《おみくじ》(2018)[撮影:青地大輔]

高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.07/つながりかえる夏

会期:2018年7月27日(金)〜9月2日(日)
会場・主催:高松市美術館(香川県高松市紺屋町10-4)
助成:公益財団法人 花王芸術・科学財団
協力:株式会社 流、Sonihouse、障害者支援施設ウインドヒル
ウェブサイト:https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/museum/takamatsu/event/exhibitions/exhibitions/ex/ex_20180727.html

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