2018年12月01日号
次回12月17日更新予定

キュレーターズノート

ゲンビどこでも企画公募2018

角奈緒子(広島市現代美術館)

2018年12月01日号

毎年恒例の公募展の季節がやってきた。筆者が勤める広島市現代美術館ではこの時期、「ゲンビどこでも企画公募」を開催しているのだ。2007年にスタートしたこの公募展は、今年で12回目を迎える。こうした公募展は日本全国の美術館で、または自治体によって開催されており、今どき珍しくもなんともない。しかしながら、大学・大学院に在学中もしくは卒業・修了したばかりの若手作家はもちろん、「中堅」とみなされるにはまだ少しばかり早い作家たちにとっては、貴重な作品発表の機会であるに違いない。

もちろん「ゲンビどこでも企画公募」も、同時代に生まれる現代美術作品を取り上げ、紹介するというミッションをもつ広島市現代美術館が積極的に行なう、若手作家の育成・支援の場である。また、この企画の実施に際しては、大変ありがたいことに、オリエンタルホテル広島、広島アンデルセン、オタフクソース株式会社といった地元企業からの協賛を得ており、入選者に「副賞」が用意されるだけでなく、この展覧会を鑑賞し、「観客賞」に投票した来館者にも、「パン」や「お好み焼きセット」がプレゼントされるという特典がつく。企業からメセナ的に資金面での協力をいただくのは現実的になかなかハードルが高いようなのだが、いわゆるメーカーであれば、こうした自社製品の提供による協賛が可能となる。他県から応募、入選する作家にとっては、さながら「ふるさと納税」的、地場の商品がもらえるという、ちょっとしたお楽しみもついてくる。今年の特別審査員は、建築史家の五十嵐太郎氏、美術作家の西野達氏、アートプロデューサーの原久子氏の3名に勤めていただいた。審査員についていえば、毎回、批評する側の視点だけでなく、制作する立場の作家にも審査に入っていただくよう考慮している。ときに審査員の顔ぶれによって、応募作品の傾向にも影響がでるのは、見ていて大変おもしろい。今年はきっと建築系や大型インスタレーション系の作品応募が多いだろうと睨んでいたが、ふたを開けてみるとさほどでもなかったのはなぜなのか。

さて、肝心の作品展示場所は、展示室以外の無料パブリックスペース。ゆえに、スペースの特性をうまく活用したプランであるかどうかという点が評価される。この点においては、筆者が数年前から審査員を務めさせていただいている、愛知県主催の「アーツチャレンジ」と大変近いスキームであり、さらには「アーツチャレンジ」と「ゲンビどこでも」の応募時期も近いため、同じ作家が別の作品プランで、または同じ作家がまったく同じ作品プランで、両方に応募していることを筆者は知っている。いずれも公立の美術館施設を会場とする公募展として、自作発表の機会を模索する若手作家たちにとって格好の機会のようである。今やそう認識してもらえるほどに、全国から多くの作家たちが応募してくれて、「ゲンビどこでも」がここまで成熟したことに感慨を覚えずにはいられない。

ところで、いまさら声高に言うことでもないような気もするが、広島市現代美術館の建築は、黒川紀章(1934-2007)の設計によるものである。1960年にメタボリズム・グループを結成、牽引し、国際的に知られることとなる、かのポストモダン建築家は、1980年代に入ると「共生」の思想を唱え、埼玉県立近代美術館(1982)、名古屋市美術館(1988)、そして広島市現代美術館(1989)と、立て続けに公立美術館を設計した。これら三館を訪れたことのある人であれば、大枠からディテールに至るまで、よく似たシスターミュージアムズだとつくづく感じるのではないだろうか。ちなみに、80年代に手がけられた一連の美術館建築のうち、最後に設計した広島市現代美術館で、黒川は1990年「日本建築学会賞(作品)」を受賞する。誇るべきこのポストモダン建築は、特徴的な空間や意匠に溢れている。そのどこに着目し、どの点を活かし、いかにして自分の作品に取り込んでいくかというプランを考えるのは、案外難しい課題である。確か私の記憶が正しければ、今年は「光庭」の人気が高く、いくつかの応募プランが集中した。展示空間として決して扱いやすい場所ではないにも拘らず、である。そのスペースでの展示を含む、今年の入選作家7名の作品を紹介しよう。


小笠原周《Body building》

美術館建物に入る直前のアプローチプラザを選んだのは、小笠原周《Body building》。五十嵐太郎賞を受賞。自分の顔面が施された彫刻(自刻像)がベースとなって構造体を支え、その上部にさらに別の人体彫刻を掲げることで、置かれる空間や建築に依存しがちな従来の彫刻との決別を宣言する。性質上必然的に重く、ときに大きく扱いにくいがゆえに敬遠されがちな石彫を手がける作家として、石彫の生き残る術を模索しようとする姿勢には好感がもてる。威勢もよく、設置上の安全性も練られたプランではあったが、構造体となるアーム(=フレーム)の材質が角材というのが、特に見た目的に心もとなく感じられ、その点についてはもう少し工夫の余地があったのではないかとかと思われた。ちなみに、彼はアーツチャレンジ2018の入選作家でもある。


田口友里衣 《認識する行為》

美術館建物に入ったエントランス、右手の壁に着目したのは、田口友里衣 《認識する行為》。壁についた汚れや傷に付箋をつけ、その存在を際立たせた作品である。立派な金色の額縁が設えられ、まるで泰西名画を鑑賞するかのように、枠内にある色とりどりの付箋と、その付箋によって示されている汚れや傷を、鑑賞者はまじまじと眺めることとなる。この作品は西野達賞を受賞。実は彼女もアーツチャレンジ2016の入選作家である。


冬木遼太郎 《思想付き通路》

もう一点、エントランスを占領しそうな勢いで大型のインスタレーションを展開したのは、冬木遼太郎 《思想付き通路》。レッドカーペットが敷かれ、そこに置かれたスネアドラムが一定の間隔で自動演奏を繰り返す。美術館エントランスに広がる静寂を突如破って、けたたましいドラム音が介入してくる。それぞれが思い思いのときを過ごしている、その場に居合わせた人々は、否が応でも音のする方へ視線をやらざるをえず、威勢よくリズムを刻むドラム音に巻き込まれるほかない。レッドカーペットが祝祭感を醸し出し、お行儀よく見えるものの、その実、大変暴力的ともいえるこの作品は鑑賞者からの評価が高く、観客賞を受賞。


田中さお 《薄い記憶》


進藤篤 《OASIS》

「ホワイト」ではないものの、いわゆるキューブとしての展示室感をもつ唯一のスペース、ミュージアムスタジオでは二人の作家、田中さお 《薄い記憶》と進藤篤 《OASIS》が展示。田中は、拓本の手法で、祖母の暮らしていた家を写し取り、再構築して提示する。玄関の柱や家具類が、当然ながら実寸大で再現されるため、インスタレーションとしての量塊というか存在感はあるのだが、記憶を支える構成要素が少なかったためか、若干物足りなく感じられた点は残念であった。もう一人の作家、進藤は、吸水性ポリマーでできた「オアシス」を出現させた。展示会期中、時間の経過とともに粒子が乾燥し、気づかない程度かもしれないが形が変わり、その変化に伴って光の屈折率が変わるため、「オアシス」の表情も変わるという。残念ながら筆者はあまりその変化に気づけなかった。なお、この作家は年明け2月に開催されるアーツチャレンジ2019にも入選しており、こちらの展示でも、ある「動き」を取り入れた作品を発表予定である。ぜひチェックしていただきたい。


宮木亜菜 《SHEETS》

ここも毎回比較的人気の高いスペース、回廊を占拠したのは、宮木亜菜 《SHEETS》。いわゆるパフォーマンス作品である。作家の暮らす京都から広島まで、ロープを編んで作った袋に詰め込んだシーツの塊をひきずって歩く。その汚れたシーツすべてがきれいになるまで、公募展会期中に洗濯しては干す、という行為を繰り返す。会期終了時には、洗濯されて真っ白になったすべてのシーツをたたんで終了する、はずだった。が、作家が風邪をひいてしまい、洗濯できない日が続いてしまった。パフォーマンス作品の場合、自身の身体が資本(=素材)である。今回の展示をとおして、身体の限界の見極めの難しさを実感したに違いない。なおシーツの展示においては、回廊にある梁をうまく利用し、近年稀に見るダイナミックなインスタレーションが実現していたことを申し添えておく。


有川滋男 《(再)解釈:ラージアイランド》地下1階の展示室内から見たところ

有川滋男 《(再)解釈:ラージアイランド》1階の屋外から見たところ

「光庭」を使いこなしたのは、有川滋男 《(再)解釈:ラージアイランド》。まず、この空間を職場とする仮の職業(ほぼ無意味な)が設定される。そして、職員がこの場所を舞台に仕事に勤しむ姿を映した映像作品と、その職を遂行するために必要な道具や制服が展示される、映像インスタレーション作品として提示される。参考までに主人公である職員の行為(仕事)をかいつまんで説明すると、天体望遠鏡で空を観察し、なにかをカウントしたのち、おもむろに三点倒立をし始め、気象予報を行なう、というもの。三点倒立する職員の身体には予想された空模様が映し出される。何重もの荒唐無稽によって生まれるナンセンスに失笑せずにはいられないが、映像のクオリティは高く、全体の構成もなかなかよくできている。この作品は原久子賞を受賞。

特別審査員のひとり、西野達氏からの講評(→公式サイト)は、𠮟咤によって挑戦者たちを奮起させようと意図したのか、厳しめではあったが、制作に対する絶え間ない努力と、こうした発表の機会を通じてのみ入ってくる批評や、見えてくる反省点をバネに、ますますの成長を期待したい。

ゲンビどこでも企画公募2018展

会場:広島市現代美術館(広島県広島市南区比治山公園1-1)
会期:2018年11月10日(土)~11月25日(日)(終了しました)
詳細:https://www.hiroshima-moca.jp/dokodemo/

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