キュレーターズノート

コレクション/コネクション──福岡市美術館の30年

山口洋三(福岡市美術館)

2009年08月15日号

美術館をひろげる・ふかめる

 ところで、コレクションを見せる手法としてはこれですらそこまで珍しいものではないかもしれないし、大規模所蔵品展とうたったところで、通常の常設展示の延長とだけ受け取られては立つ瀬がない。そこで、「美術館をひろげる・ふかめる」というコンセプトのもと、インスタレーションやパフォーマンス、そして中学生を対象としたワークショップなどを企画。当館を空間的に広げつつ、作品理解を深める方向を明確にして、所蔵品展を縦横に補完させることとした。しかし予算的には所蔵品展示だけで精一杯なので、こうした事業は「平成21年度文化庁美術館・博物館活動基盤整備支援事業」として行なった(中西信洋作品を除く)。
 まず空間をひろげる要素として、美術館内部、特に2階ロビーを普段と違った雰囲気に変えてしまい、館内に入るといきなり特別な雰囲気になっている状態を作り上げることとした。ここでは「六本木クロッシング」などで注目を集めた中西信洋(1976年福岡県生まれ、大阪府在住)に、ロビー全体を使った映像インスタレーションを依頼した。彼は見事期待に応え、福岡市内で撮影した映像をもとにした作品で来場者を魅了している。
 次に、美術館活動を館外に広げる要素としてパフォーマンスを取りいれた。折元立身とさとうりさがこのパートを担当する。本稿が出る頃には、折元の指人形パフォーマンスが終了しているが、折元の有名な《パン人間》、そしてさとうの《Risa Campaign vol.11》などが開催予定。美術館を空間的に広げるもうひとつの要素は、「灯明ウォッチング」だ。美術館周辺に1万個の灯明を展開し、薄暮の中に美術館を浮かび上がらせる試みである。
 さて「美術館をふかめる」方向での事業展開で、最大の目玉は「ジュニアキュレーター」である。福岡市中学校美術教育研究会(中美研)と共催し、市内の中学校10校と中学生約100人を対象に、当館の所蔵品を使った展覧会を企画してもらうワークショップである。6月10日から7月末までの毎週末、中学生たちが当館に通いつめ、班にわかれてテーマを練り、作品選びを行なった。同種のワークショップはほかの美術館でもすでに開催されていることは知っているが、「他館がやっているからうちはやらない」という姿勢では、結局地域の中学生たちの経験が細る結果となる。中美研はここ数年間、毎年「交流ワークショップ」と題して、中学生による当館所蔵品のギャラリートークなどを行なってきた。そこをもう一歩踏み込んで、展覧会企画にまで活動を拡大したのである。
 10チームがアイデアを競い、厳正な審査の下選ばれた1案だけが展覧会となり、のこりの展示案はマケットとファイル展示となったが、このマケット展示はプロセスを知るうえでなかなか興味深い。むしろ、完成された展覧会より面白いのではなかろうか?
 30年前にできた当館に子ども向けのスペースや託児施設はないが、今回は試みとして、特別展示室Bの一角に「キッズコーナー」を設けてみた。そこは「超・夏休みこども美術館2009」のスペースともつながっている。こちらはやや紆余曲折あって、土壇場で福岡の現代美術家オーギカナエに依頼した。ここも、中西信洋の映像インスタレーションと同じく、美術館の既存空間を一新した部分である。


2階ロビーにて、中西信洋《Layer Movie/ Fukuoka line》を展示。いつもは外光が射す空間が遮蔽され、瞑想を誘う日常風景の映像が流れる


キッズコーナーの様子。オーギカナエによるプロデュース


ジュニアキュレーターのワークショップの様子。約100人の中学生が企画作りに奮闘した