2017年10月15日号
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キュレーターズノート

ダブル・ファンタジー──韓国現代美術 展

植松由佳(国立国際美術館)2009年08月15日号

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 大阪では8月3日になってようやく梅雨が明けた。統計を始めて以来もっとも遅い梅雨明けだそうで、ようやく真夏の日ざしを感じる毎日になったが、それでも冷夏の2009年夏になりそうである。そんな大阪だが、美術に関してはイベントが目白押しで暑い夏になりそうである。

 当レポートでもお知らせした国立国際美術館での「やなぎみわ 婆々娘々!」展、そして国際美から目と鼻の先の堂島リバーフォーラムで開催中の「堂島リバービエンナーレ2009『リフレクション:アートに見る世界の今』」では、これまで2回催されたシンガポール・ビエンナーレに出品されたなかから政治的、社会的、文化的な問題提起を行なう選りすぐりの作品26点が紹介されている。また8月22日からは大阪市の中之島エリアを主会場に、水の都大阪の魅力を再発見し市民のまちづくり活動を活性化することを目的として「水都大阪2009」が開催され、さまざまなイベントが予定されているが、作品展示やワークショップも連日にわたって繰り広げられるとのことである。そして、ホテルの客室を利用したアートフェアとしては、先行の東京のART@AGNESは今年1月で一応の区切りを迎えたようである。しかし、大阪では一昨年より場所を西梅田の堂島ホテルに変えて一気に知名度が上がった感のあるART OSAKA 2009が今年も開催予定と、楽しみな大阪の夏になりそうだ。ここではまず、まだ梅雨明けぬ四国・丸亀でスタートした「ダブル・ファンタジー──韓国現代美術展」からレポートしたい。


「ダブル・ファンタジー:韓国現代美術展」展示風景より

 ここ数年における社会的変革のなかで飛躍を遂げ多大なる注目を集めた中国のアートシーンに比べて、同じく東アジア圏しかもお隣の国である韓国のいまの現代美術の状況が日本国内で紹介されることについては、中国の影に隠れた存在となってしまったことは否めないだろう。そうしたことからも、韓国の若手作家15人が紹介されるという今回の展覧会は非常に大きな意味を持つだろう。
 リ・ウーファンやナム・ジュン・パイクといった海外を拠点に世界的に活動を続けたアーティストたちに続き、スゥ・ドーホー、キム・スジャ、イ・ブル、チェ・ジョンファなどのアーティストが登場し、1995年の光州ビエンナーレの開催や主に企業が運営するアート・スペース、そしてオルタナティブスペースの登場とともに韓国の現代美術の国際化は進んで行なった。今展で紹介されたアーティストたちは、その次の世代と言うことができるだろう。若手と言ってもイ・スギョンやヂョン・ヨンドゥのようにすでに国際的なキャリアを持つものも含まれているが、そのほとんどが日本では初の出品であり、韓国の現代美術における多様性が示されている。「ダブル・ファンタジー」と題されているが、ゲスト・キュレーターを務めた北澤ひろみ氏は「最近の韓国人作家の作品の中に見られる、注目すべき特徴のひとつとして、まず〈二重性〉を挙げられるだろう」(北澤ひろみ「ダブル・ファンタジー」[『ダブル・ファンタジー:韓国現代美術展』、フォイル、2009]所収)と述べている。そしてこの二重性が二項対立や二分的なものではなく、伝統と革新、自己と他者、ローカルとグローバルといった相反するものが混在し、共存しており、韓国という地域性を超えた同時代的なものを見ることができる、とも語る。また他方の特徴として、潜在的に〈ファンタジー〉が求められているのではないかとして、二つの言葉をあわせた〈ダブル・ファンタジー〉を手がかりとして、韓国の現代美術を考察している。
 詳しくは北沢氏のテキストにゆずるが、例えばヂョン・ヨンドゥによる二つの映像によって構成された作品《Handmade Memories》は、まず一面で老人へのインタビューが収められ、もう一面ではそのインタビューのなかから選んだ印象的なエピソードをヂョン・ヨンドゥが独自の解釈により映像化している。画面に登場して滔々と自らのストーリーを語る老人と、その隣に映し出される虚構の世界。しかし並列で流される映像を見るうち現実とファンタジーが混在し、観るものを双方の世界の往還に誘う。
 ほかにも中国兵が軍事訓練する様子をサウンドに絶妙にあわせて編集したアン・ジョンジュの映像作品《Drill》は、身体感覚に見事に働きかけるものであったし、シン・ギウンの《Play Station Portable》や《Astro Boy》は消費社会やグローバリゼーションへのアイロニーが読み取れた。ほかにも印象的な作品が数多く展示されており、現在の韓国における現代美術のありように触れることができて、大きな収穫をえることができた。


ヂョン・ヨンドゥ《Handmade Memories》
左奥の2面の映像作品と、その撮影に使用された舞台装置によるインスタレーション


バック・スンウ《Blow up》(2008)
35mmフィルムから拡大されてぼやけた北朝鮮のイメージは見えない現実を強調している


ユン・ジョンミ《The Pink&Blue Project》
ピンクとブルーの物に囲まれた女の子と男の子をとらえた写真作品。ジェンダー問題や、外来文化の受容の意識が提起されている。

 昨今、前述の韓国の現代美術のシステムを機能させてきたアートスペースやオルタナティブスペースの活動休止、閉鎖が続いているという。今回、参加していた若いアーティストたちがその活動基盤としていたスペースの不在は、今後の韓国現代美術の行方をいかに左右するのだろうか。
 またその一方で、韓国としてではなく、アジアのアーティストとしてとらえ、日本や中国はもちろん他アジア諸国も含めて、改めて広範な視野で観ることの重要性を感じ取った。そういう意味でも第4回目を迎える福岡アジア美術トリエンナーレの開催を楽しみにしたい。

やなぎみわ 婆々娘々!

会場:国立国際美術館
大阪府大阪市福島区福島1-1-17/Tel.06-6341-0115
会期:2009年6月20日(土)〜9月23日(水・祝)

堂島リバービエンナーレ2009「リフレクション:アートに見る世界の今」

会場:堂島リバーフォーラム
大阪府大阪市北区中之島4-2-55/Tel.06-6447-4680
会期:2009年8月8日(土)〜9月6日(日)

水都大阪2009

会場:中之島公園、八軒家浜ほか、大阪市内各地
会期:2009年8月22日(土)〜10月12日(月・祝)

ダブル・ファンタジー──韓国現代美術 展

会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
香川県丸亀市浜町80-1/Tel.0877-24-7755
会期:2009年7月12日(日)〜10月12日(月・祝)

第4回福岡アジア美術トリエンナーレ2009

会場:福岡アジア美術館全館、周辺地域
福岡県福岡市博多区下川端町3-1 リバレインセンタービル7,8F/Tel.092-263-1100
会期:2009年9月5日(土)〜11月23日(月・祝)

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植松由佳

国立国際美術館学芸員。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館/財団法人ミモカ美術振興財団勤務を経て2008年10月より現職。おもな企画担当展=「ピピロッ...

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