キュレーターズノート

ネットワークをカタチに──秋冬・青森のアートシーン:「ラブラブショー」&「文化芸術による創造のまちあおもりプロジェクト」

日沼禎子(国際芸術センター青森)

2010年01月15日号

文化芸術による創造のまちあおもりプロジェクト

 さて、上記の展覧会は2館をつなぐ連携事業であるが、2008年3月に「あおもり芸術振興ネットワークプロジェクト研究会」が発足し、県内の12施設・団体による担当者会議を開催し、県域の連携によるプロジェクトの可能性について検討している。そのなかで、具体的な成果として、各施設・団体の事業スケジュールと時節に合わせた特集記事を掲載したフリーペーパー『あおもりアート散歩人』を年3〜4回のペースで発行している。そしてさらに、昨年、参加施設・団体の有志により「文化芸術による創造のまちあおもり実行委員会」が発足。青森、弘前、十和田、八戸の各地域を拠点に、将来、継続的に文化活動の中心を担う人材育成を目的とした展覧会、ワークショップ、リサーチを展開している。
 青森地区では、青森公立大学のちいきみらい学科に所属する1〜4年生までの学生がチームを組み、県内の芸術施設・団体の運営について調査。その魅力を探り、広く地域にPRする手法や観光産業としての可能性を研究している。弘前地区では、NPO-harappaがファシリテーターとなり、弘前在住の若手クリエーターの企画による「蒔名臼雄オマージュ展『すべては嘘だから』」(2009年11月13日〜24日、harappa gallery)を開催。企画主旨に書かれた言葉を引用すると「生誕70年を迎えた弘前出身の詩人・蒔名臼雄の生涯、作品を紹介する企画展。激動の昭和の中、さまざまな環境下に置かれながらも、作品を作り続けた蒔名。その人物像・作品の魅力に迫る。」と書かれている。がしかし蒔名臼雄とは、実はメンバーが「真っ赤な嘘」から作り出した架空のアーティストなのである(筆者はすっかり騙されて、展示を観ているあいだ、しばらく気がつかなかったぐらい)。絵画、デザイン、写真、建築、書などを手がけるアーティストたちが、詩人・蒔名臼雄をイメージし創り上げた詩をもとに、それぞれのオマージュ作品を展示するというユニークな展覧会。そのほか、十和田ではワークショップ、また八戸では2011年開館に向けて準備中の「八戸ポータルミュージアム(hpm:愛称「はっち」)」のプレイベントのための勉強会など、各地域の特性に合わせた活動を展開。来る2月に、各地域の成果を発表するプレゼンテーション、シンポジウムを青森県立美術館で開催する予定だ。

 いま、私たちの社会は新たな価値を模索し、日々急速な変化を遂げ、特に文化的な活動を取り巻く状況はますます厳しくなってくるはずだ。このように、現在、県域的に人物・情報交流、連携事業を積極的に行なっている「アートで熱い青森」は、遠くの花火のように華やかに見えるであろう。それは、閉塞感を飛び越えながら新たな産業を創出しようとする地域の人々の熱意に支えられている。しかし、ネットワークという言葉、言うは易し。継続の難しさに直面するのは、まだまだこれからといえる。人的交流を中心とした、たゆまぬ運動体であることこそが、ネットワークを支えていくのだから。


NPO-harappaにおける「蒔名臼雄オマージュ展『すべては嘘だから』」会場風景

シンポジウム「文化芸術があおもりを変える 〜ひと・もの・ことをどう活かすか〜(仮)」

会場:青森県立美術館 シアター
会期:2010年2月6日(土)、13:30〜
出演:北川フラム(アートフロントギャラリー代表取締役)、浜田剛爾(国際芸術センター青森 館長)ほか
*文化庁:文化芸術による創造のまち助成事業

キュレーターズノート /relation/e_00006875.json l 1211179