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学芸員レポート

Alternative Humanities 新たなる精神のかたち:ヤン・ファーブル×舟越桂
ルノワール──伝統と革新/死なないための葬送──荒川修作初期作品展ほか

植松由佳(国立国際美術館)2010年06月01日号

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 ゴールデンウィーク明けから、ブリティッシュ・カウンシルの招へいにより全国各地から参加した8人のキュレーターの一員として、ロンドンのほかにグラスゴー、ニューカッスル、ノッティンガムといった地方都市を訪問し、イギリスにおける現代美術のスタディ・ツアーを行なった。ロンドンのテイト・ブリテンから地方のコマーシャル・ギャラリ—や小規模の非営利団体にいたるまで、規模も設立目的もさまざまに異なる機関を訪問し、そこで活動する関係者から現状を聞くことができた。特に地方における現代美術の現況また将来を見据えての活動については、日本の地方美術館に勤務していた経験を持つ筆者にとっても非常に示唆に富み参考になることが多かった。これについてはまた機会を改めて報告をまとめたいと思う。

 連休前には金沢21世紀美術館に「Alternative Humanities 新たなる精神のかたち:ヤン・ファーブル×舟越桂」展を訪ねた。個人的に言えば前職の2001年、ヤン・ファーブルの個展を開催したのだが、今回の展覧会はそれ以来久しぶりにファーブルの作品をまとまって見ることができる機会であり、初期の重要な作品も展示されると聞いていたので、大きな関心を持って金沢に赴いた。この展覧会についての情報を得た時に、ファーブルと舟越の作品をどのように組み合わせて展示するのか興味があったが、同室に展示されていたのは1室のみであり、金沢の特徴的な区切られた白い展示空間では各々の作家の作品に向き合うことができた。一方で個展というだけでは十分でない意味合いを持つのがこの展覧会のコンセプトであり、それは2人の作家の作品と過去の芸術作品を対比させて展示することで、それぞれの文化的かつ精神的バックグラウンドを示し、その歴史的、美術的対話のなかからそれぞれの作家の世界を浮かび上がらせようとしている。
 金沢21世紀美術館は数点のファーブル作品をコレクションとして収集してもいるが、この展覧会は、金沢からルーヴル美術館に対するパートナーシップの働きかけの結果として実現したものらしい。ルーヴルでは新しい試みとして2004年以来、「コントルポワン(Contrepoint=対位法)」展と呼ばれる、歴史的なコレクション作品と現代美術作品を組み合わせるプログラムを行なっている。2008年にはその一環としてファーブルを選んだ。ファーブルの作品を理解するうえでは、その出自であるフランドル地方の歴史的・社会的背景に起因する文化への言及が必須である。それを最大限に活用してルーヴルの豊富なコレクションのなかでも、フランドル美術が展示されたギャラリーにファーブルの作品を展示することで、「生」と「死」というファーブル作品に潜む本質を鑑賞者に効果的に突きつけた。もっともファーブルはルーヴルのプロジェクトに先立ち、2006年に出身地かついまも居住する街のアントワープ王立美術館のコレクションのなかで自らの作品を展示した。今回の金沢での展示はこれまでの二つのプロジェクトを念頭に置きつつも、まったく異なる空間性かつ条件のなかで新しいチャレンジが果たされた。
 例えば初期のBiCボールペンを使った代表的な「青の時間」作品シリーズが展示された空間。ファーブルにより、夜の生き物が眠りにつき昼の生き物が目覚めるはざまの時間を「青の時間」としてまさしく死による再生が果たされるその瞬間が封じ込められた空間は、刃に触れるかのように鋭さに満ちた雰囲気が醸し出されていた。またその再生は、別の展示室では17世紀後半のヤン・デネンスの《ヴァニタス》とファーブルの《墓(剣、髑髏、十字架)》という時代を超えた2人の作家が示すイコノロジーの対話から、より効果的に導かれていた。


ヤン・ファーブル作品、展示風景
右:《私自身が空(から)になる(ドワーフ)》2007年、ADギャラリー

 また舟越桂の作品展示について言えば、正直なところ日本美術の過去の作品との組み合わせがどのようなものになるのかという懸念を若干ながらも抱いていた。しかしながら企画者は、カトリック家庭を出自としクリスチャン的要素が作品にも見え隠れする舟越と対比させるために、河鍋暁斎や狩野芳崖などの「慈母観音」像を中心に選んでおり、非常に興味深い組み合わせであった。また21世紀美術館のギャラリースペースでも比較的天井高のある展示室11を用いた展示は、特筆すべきものとして取り上げられるべきだろう。近年の両性具有のスフィンクス・シリーズによる彫刻を中心とした立体作品群と正面の壁面に展示されたドローイングの構成は、まるでチャペルに踏み入れたような静謐な雰囲気が醸し出され、立体作品群の間を縫うように天井から吊り下げられた蛍光照明の灯が、凛と満ちた空気感の中で柔らかな暖かみをもたらしているのが印象的であった。加うるに、別室では舟越の初期作品と父、保武のデッサンがあわせて展示されており、見事な二重奏を響かせていた。
 順路は特定されているわけではないのだが、各々の作品が展示された部屋を巡るうちに、2人の作家の作品との対話、またそこから導かれた東西の過去の作品からの時間性、空間性、身体性が多層的に積み重なってくるのを実感した。


左:舟越桂《水に映る月蝕》2003年 作家蔵
右:ヤン・ファーブル《ブリュージ3004(骨の天使)》2002年、ニース近現代美術館

舟越桂作品、展示風景
以上3点、提供=金沢21世紀美術館

 最後になったが、展覧会の内容に加えて金沢21世紀美術館とルーヴル美術館の関係性についても触れるべきであろう。
日本各地でルーヴルはじめ、名だたる美術館の所蔵作品展が開催され、時には何十万人という鑑賞者が会場に訪れているが、開催館と作品の借用先でもある世界各国の美術館にはなにが成果として残っているだろうか。これが海外巡回展であれば状況も異なるだろうし、また展覧会によっては企画段階より双方の学芸員が議論を深め、コンセプトやそれに相応しい作品リストを決定し作品が日本で展示され、ようやく初日を迎えるということもあるだろう。しかしながらその企画のほとんどを新聞社もしくはTV局が担うという日本の現状においては、両館もしくは両館の学芸員がイコール・パートナーとして将来にわたって関係性を深めるということは極めて稀であろう(個人レベルでのつきあいは別にして)。美術館の予算削減は一層進むなか、学芸員個々の資質において、以前に比べて企画力や展覧会を組織する能力にもすくなからず影響が見られるのではないかと懸念している。それは特に地方における海外展における危惧でもある。こうしたなかで、今回の金沢が成し遂げたプロジェクトは特筆すべきものであり、将来的な可能性を考える点からも示唆に富んでいた。

Alternative Humanities 新たなる精神のかたち:ヤン・ファーブル×舟越桂

会場:金沢21世紀美術館
金沢市広坂1-2-1/Tel. 076-220-2800
会期:2010年4月29日(木)〜8月31日(火)

学芸員レポート

 現在、国立国際美術館では「ルノワール──伝統と革新」展、「死なないための葬送──荒川修作初期作品展」と「コレクション1」が開催中である。その展覧会開催中に荒川修作氏がご逝去された。死という人間に課せられた運命を反転させるために活動してきた荒川氏の突然の死の知らせは残念でならない。荒川修作氏のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、ぜひ荒川氏の足跡の一端を会場で見て欲しい。

ルノワール──伝統と革新
死なないための葬送──荒川修作初期作品展
コレクション1

すべて
会場:国立国際美術館
大阪府大阪市北区 中之島4-2-55/Tel. 06-6447-4680
会期:2010年4月17日(土)〜6月27日(日)

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植松由佳

国立国際美術館学芸員。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館/財団法人ミモカ美術振興財団勤務を経て2008年10月より現職。おもな企画担当展=「ピピロッ...

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