2017年10月15日号
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キュレーターズノート

「スガノサカエの図画展──ハローエヴリバディ!」×「東北画は可能か?其の四〜青森編〜」

日沼禎子(国際芸術センター青森)2011年01月15日号

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 十和田市現代美術館は、コンセプト、建築、作品、周囲の環境整備などトータルな魅力で多くの来場者がある。常設展はもとより、ほどよいスペースのギャラリーで展開される企画展を気軽に楽しむことができることも魅力である。

 昨年11月から開催の「スガノサカエの図画展──ハローエヴリバディ!」は、山形県在住の作家スガノサカエ(1946-)の回顧展。ドローイング、オブジェ、銅版画など、溢れる色彩と奔放な作品群が空間に遊んでいる。むずかしい解釈や、しかめっ面は不要。のびのびとした感性に溢れた作品に、直観的に出会うことができる。画用紙だけではなく、タバコや絵の具のチューブの入っていた空き箱や、さまざまな国の伝票シールが貼ってある段ボール箱に、鮮やかな発色のアクリル絵の具が塗られ、原初的な力強い線画が重ね描かれている。60年代ロックシーン好きはすぐに反応してしまうであろう、ジャニス・ジョプリンを題材にしたシリーズ「ジャニスに捧ぐ」。また、毎日の夢を描き留めた「夢日記シリーズ」は、飄々とした風情のモンスターが登場する。スガノサカエは自身の作品を、平面でも立体でも「図画」と呼ぶとのこと。その自身の言葉どおり、一つひとつの作品が「描く」ことへの喜びと、信念に貫かれている。前述の段ボール箱は、勤め先であった魚市場で拾い集めたものだ。タバコの吸い殻、使い古しのクレヨン、高速道路のレシート、ボタンや壊れたプラスチック玩具を奔放にコラージュしたものなど。それは、一見とても奇妙な世界感に見えるが、描くことが日常であり、生きることであるという、スガノの等身大の姿を鮮烈に映し出している。しかしそれらは、作品に対する評価を求め、芸術性を問うことを突きつけはせず、むしろ日常を生きることの困難さに疲れ、立ち止まってしまう私たちを、ユーモアと愛情をもって励ましてくれているようだ。


左:《無題》2005、スケッチブック、レシート
右:展示風景


右から
《迷子》1996、《砂浜に腕をつく》1996、《白い月を食べる女》1996、《背中合わせの月と女》1996、《庭の夢》1996、《セルフポートレート》1996
6点とも:HOLBEINの空き箱、アクリル絵の具


左:《無題》2004(3点とも:ダンボール、タバコ、口紅、ペンキ、ビーズ)
右:《夢日記シリーズ》2010、スケッチブック


《墨画》2009

 また、同時期、美術館に隣接する商店街を会場に「東北画は可能か?其の四〜青森編〜」が開催。この企画は、画家、三瀬夏之介が東北芸術工科大学(山形県)の日本画コースの教員として山形へ拠を移したことをきっかけとして、同じく洋画コースの教員である鴻崎正武、学部生・院生たちとともに2009年の夏から取り組んでいるもの。自らが設定した「東北画」という壮大なテーマに、作家としての仕事のリアル、あるいは、日本という存在のリアルに、「描くこと」で向き合おうという試みである。毎夏に東北を旅して出会い蓄積されたものをもとに、大型絵画の共同制作のほか、個々の技法で描かれた絵画や立体などを制作。これまで東京、仙台、山形での発表を経て、十和田展は4回目の展示となる。期間中は、十和田市現代美術館との共催によりスガノサカエと三瀬との対談や、学生によるDJ、ダンスイベントなども多彩に開催された。会場のひとつ「C-Lounge」は、武蔵野美術大学、多摩美術大学、東京造形大学などの学生、卒業生からなるクリエイティブ集団SozoAgeが空き店舗を改装した場所。互いの創造性が響き合い、エネルギーを交感したその熱を空間全体で感じ取ることができた。学生の取り組みであるが故に、下駄を履かせているという言葉も聞こえてきそうだが、教員であろうが学生であろうが、ビジョンあるフィールドを獲得し、表現者として共に学び合い、育ち合う場は、いま、とても重要であると思う。なによりも牽引する三瀬自身が指導的な立場である以上に、自らの絵画世界に、よりエネルギッシュに深く向きあっているように見える。今後の展開もぜひ期待したい。


展示会場「C-Lounge」


左:Origumi(有志メンバー6名によるユニット)《山形肘折道中》2009、六曲一隻屏風
右:ヤマノエ(有志メンバー8名によるユニット)《東北八重山畫》2010

スガノサカエの図画展──ハローエヴリバディ!

会期:2010年11月20日(土)〜2011年1月10日(月・祝)
会場:十和田市現代美術館
青森県十和田市西二番町10-9/Tel. 0176-20-1127

東北画は可能か?其の四〜青森編〜

会期:2010年11月20日(土)〜12月19日(日)
会場:C-Lounge、十和田市商店街内

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日沼禎子

1969年生まれ。女子美術大学准教授。 国際芸術センター青森(ACAC) 学芸員、 ARTizan プログラム・ディレクター、 空間実験室 ...

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