artscapeレビュー

『ブラックスワン』

2011年06月01日号

会期:2011/05/11

ヒューマントラストシネマ有楽町[東京都]

母を殺せるか? 成し遂げられなかった自己実現を自分に代行させるために、寵愛や庇護を惜しみなく与えてくる母を。「箱入り娘」に限らずとも、現代を生きる女性の多くが直面している、このきわめて現代的なテーマを、プリマバレリーナをめぐるドラマに置き換えて仕上げたのが本作だ。ホワイトスワンとしては申し分ない才能に恵まれながらも色気が乏しいがゆえにブラックスワンになりきれない主人公が、陰気な母や演出家の伊達男、そして妖艶な魅力を放つライバルなどによって精神的に追い詰められてゆき、やがて幻覚に苛まれながらブラックスワンへと変貌を遂げていく物語が、じつにテンポよく進行していく。精神を収縮させるようなサイコホラーの連続から圧倒的なバレエを爆発させるクライマックスへと至る構成もすばらしい。文字どおりカタルシスを存分に味わえる映画だが、この構成そのものがオルガスムスのそれと重なり合っているようにも思われた。つまり性的な自立が母殺しを可能にすることが観客に暗示されていたわけだが、主人公はそれをみずからの死と引き換えにしなければ成就しえなかったところに、やりきれない悲劇がある。

2011/05/18(水)(福住廉)

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