2018年06月15日号
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artscapeレビュー

戦争と日本近代美術

2011年07月01日号

会期:2011/05/14~2011/06/19

板橋区立美術館[東京都]

太平洋戦争前後の近代美術を同館所蔵作品から振り返る企画展。柳瀬正夢や山下菊二、新海覚雄、太田三郎などによる絵画を中心に、戦時中の画材の配給票などの資料もあわせて展示が構成された。戦争というと、おのずと「戦争画」を連想しがちだが、戦意高揚のために交戦の場面を直接的に描いた戦争画は一切含まれず、原爆投下をモチーフにした古沢岩美の《憑曲》や、池田龍雄の《僕らを傷つけたもの 1945年の記憶》などが辛うじて戦争のイメージを呼び起こしていた。もちろん日本近代美術と戦争というテーマについて真摯に検討するのであれば、戦争画を公開したほうがよいに決まっているが、本展における戦争画の不在はあるいは現代社会における戦争と図らずも通底しているようにも考えられた。原爆と同じ原子力の「平和利用」によって現代社会の繁栄が築かれてきたように、かつて外側に対象化することのできた敵は、いまや内側に反転してこびりついてしまったからだ。しかも戦争による世界の崩壊は、ある種のスペクタクルを伴いながら一気に殲滅する核戦争の類いに限られたわけではなく、晩発性の放射性物質のように知らず知らずのうちにゆっくりと破滅に向かって進行するのかもしれない。従来の戦争画が描写しているのは20世紀までの戦争だから、現在の戦争はまったく新しいイメージでとらえなおさなければならない。本展における戦争画の不在は、新たな戦争画の必要を告げていた。

2011/06/01(水)(福住廉)

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