2018年10月15日号
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artscapeレビュー

五百羅漢──増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信

2011年07月01日号

会期:2011/04/29~2011/07/03

江戸東京博物館[東京都]

幕末の絵師、狩野一信が10年にわたって描いた「五百羅漢図」。この展覧会は増上寺が秘蔵するその全100幅を一挙に公開したもの。172×85cmという画面と、その画面の下部に前景を、上部に後景を描くという構図がそれぞれ定型化されているため、ともすると単調な鑑賞になりがちだが、抑揚をつけた展示構成と何より描かれた羅漢たちの面妖な容姿のおかげで、いちいちおもしろい。羅漢の特徴は、坊主頭を取り巻く光輪と、何か曰くありげないやらしい目つき。世俗を達観した仏僧というより、生活の俗塵にまみれながらも悟りを開いた修行僧として描かれていたわけだ。じっさい百幅のうちの前半は羅漢たちの暮らしや修行の模様を描いているが、そこには浮世離れしたというより等身大の暮らしがあるだけだし、雲に乗って浮遊する羅漢たちを見てみると、庶民や動物を救済する聖なる一面と、下々を見下ろす卑しい一面を同時に感じ取れる。それは仏の清濁併せ呑む度量の大きさを示すというより、人間の生々しい実像を提示することによって見る者への訴求力を高めようとする戦術の現われのように思われた。平たく言えば、一信は十分に「ウケ」を狙っていたのではないか。いくら歴史上の人物だとはいえ、絵描きとしての素直な欲望が垣間見えるところがおもしろい。

2011/06/02(木)(福住廉)

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