artscapeレビュー

文士の肖像

2011年07月01日号

会期:2011/04/25~2011/07/01

ノエビア銀座ギャラリー[東京都]

昭和を代表する写真家である濱谷浩、林忠彦、田沼武能が文士を撮影した肖像写真を見せる展覧会。小規模とはいえ、同じく昭和に活躍した文士の肖像写真はいずれも味わいのあるものばかりで見応えがあった。その味が撮影の技術に由来しているのか、それとも被写体となった文豪たちの顔の造作や所作の美しさに起因しているのか、よくわからなかったが、おそらく両方が混在しているのだろう。写真の傍らに添付された撮影時のエピソードを綴ったテキストも、その味わいによりいっそう深みを増していたようだ。自宅の玄関口にかけた札に「世の中で人の来るこそうれしけれ、とはいふもののお前ではなし」と記した内田百聞の言語的感性こそ、無駄口だけで安易に他者とつながりたがり、自己目的化したコミュニケーションに現を抜かしている現代人に、もっとも欠落した品性である。言葉の密度を取り返したい。

2011/06/09(木)(福住廉)

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