artscapeレビュー

野村佐紀子 展

2011年07月15日号

会期:2011/06/02~2011/06/17

photographers’ gallery[東京都]

野村佐紀子はこのところphotographers’ galleryで毎年個展を開催しているが、それもいつのまにか4回目になった。展示を重ねていく間に、以前の彼女の写真とは違ったスタイルの表現の形が生まれつつあるように思う。
野村の代名詞といえるのは、プライヴェートな空間で、闇の中に溶け込んでいくような男性ヌードだが、photographers’ galleryでの展示では、その前後に風景、オブジェ、スナップなどの写真群がつけ合わされ、写真家の移動の軌跡や感情のざわめきが浮かび上がってくる「物語」的な構造が模索されている。その試みは、今回の展示作品でほぼ完成の域に達したのではないだろうか。白木のフレームにおさめられた18点の写真を目で追っていくうちに、不思議な余韻を残すイメージの流れに誘い込まれていくような気がしてくる。写真の大きさ(2点だけがやや大きく引き伸ばされている)のバランスや、カラー(4点)とモノクローム(14点)の配合もうまくいっていて、野村の視線と見る者の視線が自ずと同化していくような感覚を味わうことができた。野村が荒木経惟のアシスタントとして写真の世界に飛び込んでから20年が過ぎ、師匠とはやや違った、ゆったりとした時間の流れを含み込んだ「物語作家」のスタイルが身についてきているように感じる。
なお、photographers’ galleryの隣室のKULA PHOTO GALLERYでも、野村の個展「REQUIEM」が開催されていた。旧作の男性ヌード10点と、森の風景とカーテン越しに差しこむ光を捉えたカラー作品が2点。男性ヌードは入稿用の原稿なのだろう。赤いペンでの描き込みやナンバリングの数字がある。本人に確認できなかったのだが、おそらく何か鎮魂の意味を込めた展示なのだろう。こちらも、囁きかけるように静かに語りかける野村の声が聞こえてきそうな、いい展示だった。

2011/06/03(金)(飯沢耕太郎)

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