2024年03月01日号
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artscapeレビュー

KATHY's "New Dimension"

2011年08月01日号

会期:2011/06/03

TOKYO CULTUART by BEAMS[東京都]

ピンク、ブルー、イエローの衣装を身にまとい、ブロンド髪で顔には黒ストッキングをかぶっている(かに見える)、ユニークなルックスの三人組KATHY。「きもかわ」というか、ホラーと乙女チックの両方を重ね合わせたイメージと、「指令者が課してくる任務の遂行として踊る」といったコンセプトとで、これまでコンテンポラリー・ダンスの世界に限らず、さまざまな場で話題を振りまいてきた彼女たちが、6月に本を出した。タイトルにあるように「新しい次元」でのダンスがテーマ。驚くのはこの「次元」という言葉が比喩として用いられているのではないということ。宇宙物理学などを援用しながらの文章では「みえないダンスの世界へ」「マルチバース(多元的宇宙)においてのあたらしいダンスを考える」などの言葉が踊る。「新しい」なにかがここに胎動していると感じられはする、とはいえ、正直まだ謎めいた部分も多い。おそらく、本書を発端に展開される今後の活動を通して真意が明らかにされていくことだろう。現時点で十分明白に感じられるのは、「ダンス」という言葉で通念上考えられているなにかとは異なるなにかを希求する強い思いがKATHYのなかに沸き立っていること。なるほど、「立てない身体」から出発した土方巽が「床」の存在を疑ってみせたように、新しいダンスは、ぼくたちの通念を疑うところからしか始まらないに違いない。
 「みえないダンス」の可視化に寄与しているのは、水野健一郎によるイラストレーション。肉体をもって踊ることが(通念上の意識において)三次元のダンスであるとして、一次元引いた(二次元の)イラストレーションによってこそ、三次元のダンスの限界の「先」が示唆できる、という事態に驚かされた。そうか、イラストレーションとしてのダンスか! ダンスは肉体で踊られなくても作品化できるのだ! 水野の絵には、ときにハンス・ベルメールの素描を連想させるところがあり、身体や空間のイメージが拡張されるスリルに満ちている。その意味で、水野の作品集『Funny Crash』をあわせて読むことをお勧めする。ちなみに添付されたDVDに収録されているKATHYの最新映像作品によっても十分予感を与えてくれていることなのだけれど、今後のKATHYや彼女たちと水野健一郎とのコラボレーションによって、彼女たちの謳う「あたらしいダンス」が確実なかたちを帯び、世界を震撼させるときがくることを待望せずにはいられない。

2011/06/03(金)(木村覚)

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