artscapeレビュー

メタルヘッド

2011年08月01日号

会期:2011/06/25

シアターN渋谷[東京都]

芸術の本質とは何か。そのひとつが常識的な基準を超越する非日常的な価値にあるとすれば、本作で描かれているヘヴィメタ野郎、ヘッシャーはまちがいなくアーティストである。破天荒な風来坊、もっと平たくいえば、かなりヤバいやつ。主人公の少年の自宅に突然押しかけて居座るばかりか、家族のデリケートな問題にズカズカと入り込み、挙句の果てに少年を車で跳ね飛ばしてゲラゲラ笑うありさまには、悪魔とスレスレの魅力があふれている。その怪しい魅力を存分に描きながらも、同時にその背後に魂の喪失感や虚無感をあぶり出し、それを子どもであろうと大人であろうと、男であろうと女であろうと、本作の登場人物たちに共通する精神的な痛みとして示しているところに、本作ならではの大きな特徴がある。あるいは、へヴィメタルというジャンルには、そうした二重性が本来的に備わっているのかもしれないが、仮にそうだしても、やはりそこにこそ芸術という価値を与えるべきである。なぜなら、登場人物たちが内側に抱えている暗い喪失感は、いま私たちがその取り扱いに苦慮している痛みとまちがいなく通底しているからだ。同時代のアートとして評価するべき映画である。

2011/06/29(水)(福住廉)

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