artscapeレビュー

垂見健吾「新琉球人の肖像」

2011年09月15日号

会期:2011/07/27~2011/08/05

えすぱすミラボオ[東京都]

沖縄・那覇在住の写真家、垂見健吾は、1993年に『琉球人の肖像』(スイッチパブリッシング)という写真集を刊行した。沖縄に生きる人びとを4×5インチの大判カメラで正面から撮影したポートレートのシリーズだが、タイトルが示すように今回の「新琉球人の肖像」はその続編にあたる。
だが見た目の印象はかなり違う。以前はモノクロームだったが、今回はカラーフィルムで撮影しているので、はっとするような華やかな色彩が画面にあふれている。また、被写体になっているのは世界各地に移住した「琉球人」の2世~4世たちで、外観はほとんど西洋人という人もいる。つまり「タルケン」こと垂見健吾がもくろんでいるのは、従来の「琉球人」の枠を拡大して、「血的文化的な混じりあい」によって生まれた「新しいうちなーんちゅ」のあり方を、写真を通じて探り出すことなのだ。その意図はかなりうまく実現されているのではないだろうか。三線、太鼓のような楽器や、エイサーや空手のような身体表現、またウチナーグチ(沖縄ことば)の伝承を通じて、父祖たちの文化とつながっていこうとする「新琉球人」の思いが伝わってくるいいシリーズだと思う。ただ、まだ被写体となる人たちの数が少なく、地域的にもハワイやアメリカに片寄っている。もう少し長く続けることで、より広がりとふくらみを備えたシリーズとして成長していくのではないだろうか。
そういえば、2011年3月~5月に開催された高桑常寿「唄者の肖像」展(キヤノンギャラリーS)も、4×5インチ判のカメラによるポートレートのシリーズだった。沖縄の人たちの力強いくっきりとした顔貌は、大判カメラの精密描写でもびくともしない存在感があるということだろう。ただし、高桑の「剛」に対して垂見の「柔」というか、対象のつかまえ方には違いがあると感じた。

2011/08/02(火)(飯沢耕太郎)

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