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Picturing Plants: Masterpieces of Botanical Illustration(植物の描写──植物画の傑作)

2011年10月01日号

会期:2011/02/05~2011/09/15

ヴィクトリア&アルバート美術館 ギャラリー88a,90[ロンドン]

同館は1856年の創立以来、「植物画(Botanical Illustration)」を収集してきたという。なぜかと言えば、ひとつはそれら木版画の製作過程および製本術を参照するため、もうひとつが描かれた植物が装飾デザインのパターンブックとして機能したためであった。そもそも植物画とは博物学的関心から生じたのであるが、時代が進むにつれて用途に応じたさまざまなタイプが生まれ展開してきた。植物学的分析用、新種発見にともなう記録用、園芸学用から、装飾用のものまで。そして植物画は観賞用の「アート」としても次第に確立されていく。例えばヨハン・ジェイコブ・ヴァルターの《ボタン》は、学問的追究によって植物の正確な描写を目指したのではなく、明らかに装飾目的で描かれている。実際のボタンではありえないほどの細い茎、花の配置は美的に構成されているからだ。本展は、植物画の描かれる目的、社会的コンテクスト、印刷技術の発展、これらが植物画の発展といかなる影響関係にあったかについて考えさせる、非常に良い試みであった。ウィリアム・モリスが草花のデザイン研究のために植物図譜を参考にしたことは知られているが、彼のみならず、19世紀後期のデザイナーたちは「自然」を新しい装飾源に求めた。本展の植物画を見た後、さまざまな装飾デザイン製品を実際に比較・鑑賞できるのは、世界最大級のデザイン・美術コレクションを誇る、ヴィクトリア&アルバート美術館ならではの僥倖だった。[竹内有子]


図版:ヨハン・ジェイコブ・ヴァルター《ボタン》、1650-70年頃、V&A所蔵

2011/09/02(金)(SYNK)

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