artscapeレビュー

森岡督行/平野太呂(写真)『写真集』

2011年10月15日号

発行所:平凡社(コロナ・ブックス)

発行日:2011年9月7日

「写真集の写真集」。このアイディアは以前から形にしたいと思っていたのだが、残念ながら先を越されてしまった。しかも、かなり理想に近い形で。
本書に収録された写真集は、すべて東京・茅場町の森岡書店で扱っているものである。森岡書店は、著者の森岡督行が1926(昭和2)年建造という古いビルの一室に、2006年に開業した古書店である。白壁と焦茶色の床の室内には、趣味のいい書棚と机が並べられ、そこにゆったりと、これまた趣味よく写真集を中心にした本が並べられている。壁の一部はギャラリーとしても使われていて、僕も個展を開催させていただいたことがあった(飯沢耕太郎コラージュ展「ストーンタウン・グラフィティ」2010年12月13日~18日)。個人的にも、とても好きな空間なのだが、ヨーロッパや日本の戦前の写真集など、古書店としての品揃えもしっかりしていて、定期的に足を運ぶお客も多い。本書はその森岡書店の粒ぞろいの写真集を、店主自ら解説して紹介するというなかなか贅沢な企画である。大竹昭子、平松洋子、ピーコ、しまおまほ、藤本壮介など、縁のある人々に森岡が写真集を手紙つきで送るという想定で書かれた文章も、しっかりと丁寧に綴られている。
だが、本書の最大の魅力は、何といっても平野太呂によって撮影された書影の素晴らしさだろう。むろん単なる複写ではない。この本はここに、こんなふうに置かれるべきだという思いがそれぞれ見事に実現されていて、ページをめくるたびに新しい世界が開けてくる。センスのよさだけではなく、写真集そのものに対する理解度の深さが伝わってくるのだ。実物で確認してほしいので、ここではあまり具体的なことは書きたくないが、ひとつだけ。エドワード・スタイケン編の『The Family of Man』が、白いハンガーにぶら下がっている写真を見て、思わず笑ってしまった。

2011/09/14(水)(飯沢耕太郎)

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