2017年11月15日号
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artscapeレビュー

指田菜穂子

2011年11月01日号

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会期:2011/09/27~2011/10/22

西村画廊[東京都]

指田菜穂子が取り組んでいるのは、百科事典の絵画化である。共通しているのは中国の年画のような華やかな色彩だが、一つひとつの絵には、「酒」「箱」「糸」「子ども」といったようにテーマが設けられ、その項目に沿った図像や記号がそれぞれ画面に密集している。例えば《こんな夢を見た》(2010)を見てみると、富士山と鷹、茄子をはじめ、獏、夜の街並み、梟と蝙蝠、ユング、涅槃像、眼を閉じたオランピア、黒澤明の映画『夢』、落語の「芝浜」など、「夢」にまつわる古今東西のイメージがふんだんに盛り込まれており、絵の中に分け入りながらそれらを読み解いていく経験がじつに楽しい。子どもたちが放り投げた枕がいつのまにか羊に成り代わっていく様子をストップモーションで描く工夫もおもしろいし、「はかない夢」を花言葉とするアネモネなのかどうか、可憐な花々が描いているのは無限大のかたち(∞)だ。つまり、睡眠中の「夢」だけでなく、将来的な願望を意味する「夢」も隠されているわけだ。百科事典が幾度も読み返すための書物であるように、指田が描き出しているのは、見れば見るほど新たな発見を期待させ、そこからさらに見ることを誘うような、文字どおり何度も見返すことのできる絵画である。そして何よりすばらしいのは、そうして画面の隅々に視線を運んでいると、さまざまなイメージを嬉々として配置する指田の心の躍動感がたしかに伝わってくるところだ。このような絵を描く原初的な喜びは、禁欲的で理論的、あるいは心神耗弱的な日本の現代絵画の伝統において長らく不当に抑圧されてきた、絵を描く者にとっての心の「よすが」である。指田菜穂子はそれを健やかに取り戻してみせた。百科事典の絵画化というプロジェクトは、絵を見る者の心にも、やがてそれを復活させるだろう。

2011/09/29(木)(福住廉)

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