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artscapeレビュー

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2011年12月01日号

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会期:2011/10/08~2011/10/29

松の湯二階[東京都]

銭湯を舞台にした展覧会。銭湯の1階は通常営業しているが、現在は使われていない2階を使って、12人のアーティストが作品を展示した。浴室はもちろん、サウナ、休憩所、更衣室など、空間の隅々を使い切る貪欲さが気持ちよい。ひときわ際立っていたのは、窪田美樹。くしゃくしゃに丸めた刺青の写真を浴槽の中に敷き詰め、湯が波立っているように見せた。さまざまな肌色とさまざまな文様が凝集した迫力が凄まじい。銭湯ばかりか社会全般からも「刺青」が排除されつつあるいま、窪田のインスタレーションはサバルタン(被差別民)の声なき声がさざめいているように見えた。思えば、そもそも銭湯とはさまざまな庶民が文字どおり裸一貫になって集う場所だった。かつて私たちは湯を分かち合い、ともに語らい、明日への英気を養うことで、人生をよりよく生き直してきたのである。そこから落語が生まれ、銭湯のペンキ絵が育まれてきたことを考えれば、銭湯とは人間の生と分かち難く結びついた芸術の母胎だったとさえ言える。浅草寺の「油絵茶屋」が絵から口上を奪っていった歴史を思い出させたように、本展は私たちの暮らしが銭湯という共同体を捨て去っていった歴史を連想させた。私たちは「近現代美術」を手に入れた代わりに、暮らしに根づいた芸術を失ってしまったのである。いま現代アートに私たちが望んでいるのは、その回復である。

2011/10/27(木)(福住廉)

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