artscapeレビュー

『ニーチェの馬』

2011年12月15日号

[埼玉県]

タル・ベーラ監督の最後とされる映画『ニーチェの馬』を見る。おそろしく、カット数が少ない。ひきのばされたミニマル・ミュージックのごとく、極小にまで削ぎおとされた要素。農夫と娘と馬と訪問者、わずかな登場人物。クライマックスはない。たえず強風が吹きすさぶ谷間の家の窓から木が見える。そうしたカスパー・ダヴィット・フリードリヒの絵のような、風景と構図だけで映画が成立している。ロケハンでふさわしい場所を探し、そこにセットとして家をまるごと一棟建設したという。しかし、単調な反復がほころび、やがて世界が壊れていく。いや、世界はすでに終わっていたのかもしれない。創世記を反転したように、物語が終焉に向かっていく。

2011/11/04(金)(五十嵐太郎)

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