2017年12月15日号
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artscapeレビュー

杉浦康平・脈動する本──デザインの手法と哲学

2012年01月15日号

会期:2011/10/21~2011/12/17

武蔵野美術大学 美術館[東京都]

武蔵野美術大学美術館は、2008年から3年をかけてデザイナー杉浦康平から全作品の寄贈を受けた。この展覧会では寄贈品のなかからブックデザインの仕事を中心に約1,000点を紹介する。会場では、本に見立てたであろう厚みのある解説パネルを中心に、デザイン手法の変遷ごとに杉浦の半世紀にわたる仕事が展示されている。膨大な展示品のなかに、杉浦の仕事とは知らずに手にとったことがある本が多数あることに気づかされる。書店の棚で私たちに訴えてくる文字と図像。装幀の仕事は一見地味であるが、その印象は人々の心に刻み込まれている。展示会場の構成にも杉浦自身が関わっている。杉浦のブックデザイン同様、そこには全体としてのパターン、秩序があるにもかかわらず、個々はそのなかに埋もれない。展示の島は一つひとつが独自で、それぞれが心に刺さる棘を持つ。
 展示された作品の数々にも圧倒されるが、図録もまた圧巻である。収録されている小さな図版をルーペで覗くと、一文字一文字を読むことができるのだ! 緻密に計算された杉浦デザインの構造を明らかにする鈴木一誌氏の分析、杉浦康平の仕事の進め方についてついて記した松岡正剛氏の証言も興味深い。松岡氏を含め、編集者たちは新しい本を創りだしてくれることを期待して杉浦に仕事を依頼するのだが、その一方で杉浦がどのような大胆な提案を行なうか恐怖していたという。時間、コスト、複雑な印刷指定や造本技術、編集者の作業負担……。そうした無数の障壁、編集者にとっての恐怖を乗り越えたところに、誰も見たことのないデザインが生まれるのである。
 同時期にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された「杉浦康平・マンダラ発光」展(2011/12/01~12/24)は、映像と音響によって体験する杉浦デザインの世界。これもまた異色のデザイン展であった。[新川徳彦]

2011/12/17(土)(SYNK)

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