artscapeレビュー

種子のデザイン──旅するかたち

2012年02月01日号

会期:2011/12/01~2012/02/25

INAXギャラリー[東京都]

羽根や綿毛を利用して風に乗って運ばれる種子。水に流されて旅をしつつ、目的地では錨を降ろして根を張る種子。食べられたり、貯えられたり、ひっついたり、他の生物の習性を利用して移動する種子。自らは動くことができない植物が子孫を広範囲に確実に残していくためのさまざまな工夫は、最適な形となって現われる。本来ならば博物館で開催されるような内容であるが、機能と形との関係に着目することで優れた「デザイン」の実例を見せてくれる展覧会である。人間のつくりだすデザインと、自然のつくりだすデザインとの違いは、自然のデザインはとても合理的であるものの、目的の達成という点ではけっして歩留まりが良いわけではないという点があげられようか。適切な場を得ることができず発芽できないもの。外皮ばかりではなく種子まで動物に食べられ消化されてしまうもの、等々。多くの植物において、発芽し、根を張り、成長し、再び子孫を残すことができる種子の比率はとても少ない。もちろん、その歩留まりの悪さも全体的なシステムのなかに織り込まれているからこそ、長い歳月を生き延びてきたのである。人間のつくるデザインは自然からさまざまなメタファーを取り入れてきたが、はたしてこのようなシステムをも取り入れることは可能であろうか。[新川徳彦]

2012/01/24(火)(SYNK)

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