artscapeレビュー

映画『ドラゴン・タトゥーの女』

2012年03月01日号

会期:2012/02/10

TOHOシネマ梅田ほか[大阪府]

本作は、スウェーデンの作家スティーグ・ラーソン(Stieg Larsson, 1954-2004)のベストセラー小説を、デヴィッド・フィンチャー(David Fincher, 1962- )監督がハリウッドで映画化したものである。あえてハリウッドと言ったのは、2009年に同じ小説を映画化したスウェーデン映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』があるからだ。私はラーソンの小説も、スウェーデン版の映画もみていない。フィンチャーの映画を、フィンチャーの映画としてみたかったからだ。原作があったり、リメイクされた映画はどうしても比較されてしまう。小説は小説で、映画は映画だ。比較は無意味なのである(聞いた話では原作と映画の結末が異なるそうだ)。久しぶりのフィンチャー監督の本客サスペンスで、正直、相当期待していた。だが、話の展開が緩く、とくに前半部の背景設定にしまりがない(ダラダラした描写が続く)ため、後半部とのバランスが取れていない感が否めない。ジャンル映画(サスペンス)としての必須要素(緊張感)を失っている。ただ、『セブン』や『ゾディアック』でみられる聖書と連続殺人というテーマ、さらに『セブン』や『ファイト・クラブ』『ゾディアック』『パニック・ルーム』に共通する、見えない相手、潜在的な暴力からくる恐怖を見事に描いているところは、フィンチャーらしく、フィンチャーの映画として見応え十分であった。また映像を映像として楽しみ、工夫をこらす、フィンチャーの変わらない遊び心と真剣さが感じられる。フラッシュバックを使わず、静止画(写真)、つまりイメージによるストーリーテリングは絶妙である。[金相美]

2012/01/15(日)(SYNK)

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