artscapeレビュー

庭劇団ペニノ『誰も知らない貴方の部屋』

2012年03月01日号

会期:2012/02/10~2012/02/26

はこぶね(劇団アトリエ)[東京都]

会場が公共ホールではなく主宰タニノクロウ氏の個人的な空間であることがそう思わせる主要因かもしれないが、会場を後にする気分は観劇体験というよりも、特殊な趣味の知人に招かれ、彼のきわめて個人的な嗜好に触れてしまったときのそれにきわめて近い。マンションの狭い一室。ぎゅうぎゅう詰めで座った観客の前に、上下二層になった舞台(部屋)が窮屈に広がる。前半の舞台となった上の層では、歯並びの極端に悪い人間(というよりは家畜の形相の)修道女(らしき)二人がランプや椅子やテーブル、たて笛などを磨く仕事を行なっている。問題はそれらのオブジェがどれもどう見ても男性器の形状をとっていることで、それだけでなんだか目の前の景色が「あやしいもの」に思えてくる。カーヴを布で撫でると、客席は失笑を禁じえない。男性器化したオブジェたちは悪夢? 修道女の妄想? あるいは観客の無意識の実体化? あれこれと思いがゆれる。そもそもタイトルの「貴方」とは誰を指している? などと問うていると、下の層が明るくなった。タイル張りのその部屋では中年にして学生服姿の男が異形のはりぼてを制作している。しばらくすると胴回りのしっかりした兄が現われ、二人は戯れ出した。兄の顔ははりぼてにそっくり。似すぎていて気持ちが悪い。これは兄のための誕生日プレゼントだということが次第に明らかになってくる。上の層に置かれたオブジェたちも修道女たちにつくらせたプレゼントの一部らしい。となれば、同性愛というべきかどうかは微妙だが、制服男の過剰な男性器愛がこの芝居の主題だったと判ってくる。最後のほうのシーンでは、この奇怪な男女4人がパッフェルベルの「カノン」をたて笛で演奏する。端から端まで、まともには理解不能の舞台、しかしすべてが絶妙なバランスで連動している。この絶妙な感じはタニノのセンスのなせるわざとしか言いようがなく、こんな凝った舞台を見せてくれて本当にありがとうとちょっと引きつった笑顔でこの部屋の主人に(心のなかで)会釈しつつ帰り道、思わず「早くいまの松本人志のステイタスを獲得して映画でもテレビ番組でもつくって欲しい」と呟いてしまった。

2012/02/12(日)(木村覚)

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