artscapeレビュー

松原健「眠る水」

2012年03月15日号

会期:2012/02/03~2012/03/04

MA2 Gallery[東京都]

恵比寿映像祭の連携企画として開催された松原健の新作展。こういう作品を見てもデジタル映像機器の進化が、写真家やアーティストにのびやかな発想の広がりをもたらしていることがわかる。彼がこのところこだわり続けているベトナムの少年、少女たちをモデルにした「眠る水─メコンデルタ」の連作がメインの展示で、メコンデルタの河を静かに流れていく彼らの様子を上から撮影したモノクロームの映像が、筒状のガラス容器の中に入れられた小型の液晶モニターに映し出されている。容器の内側がハーフミラー加工されているので、映像は揺らめき、分裂しているように見える。ゆっくりと河の流れに乗って上昇していく5人の子どもたちの姿は、ジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」を思わせるが、悲劇性や耽美性はあまり感じられず、むしろ清々しい開放的な雰囲気に仕上がっているのがいかにも松原らしい。
ほかにも、グラスの縁からあふれ出る水(「眠る水─コップの中の嵐」)、焔を上げる鹿の角(「眠る水─エゾ鹿」)、4つの都市の女の子たちが次々に蝋燭の火を吹き消していく場面(「ブラスチバ、ホーチミン、タイペイ、トウキョウ」)など、さまざまな容器に小型液晶モニターを仕込んで映像を流す作品が展示されていた。アイディアを形にしていく手際の鮮やかさはもちろんだが、全体に記憶の一場面を小さな器に封じ込めるという松原の志向が一貫して感じられて、静謐に美しく結晶した映像世界が構築されつつあると思う。

2012/02/16(木)(飯沢耕太郎)

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