artscapeレビュー

カレが捕まっちゃった

2012年04月01日号

会期:2011/03/09~2012/03/09

渋谷オーディトリウム[東京都]

2月の前橋映像祭で上映された江畠香希監督のドキュメンタリー映画。昨年の9月11日に新宿で行なわれた「原発やめろデモ!!!!!」における警察の過剰警備と不当逮捕の実態を記録した。詳細を記述することはあえて控えるが、この記録映像には脱原発デモに対する警察の弾圧(としか言いようがない)が克明に映し出されている。したがって、脱原発デモに参加した人にとって、一見の価値がある映像作品であると断言できる。いや、この困難な時代を生きる者たちこそ見るべき映像と言ってもいい。
原発の全廃を願う大多数の人たちにとって、政府がそれをなかなか遂行しない以上、デモという集団的な表現形式に頼らざるをえないことは変わりがない。ただ、それが警察との折衝を不可避としており、かつての労働運動や学生運動がその応酬によって極限化してゆき、やがて疲弊しながら自滅していった歴史的経緯を考えれば、今後の脱原発運動はデモ以外の集団的な表現形式を開発するべきだと思う。脱原発運動の内実が多様であるように、その表現形式もまた多様であっていい。デモの祝祭性は不可欠だが、多大な時間を必要する原発の廃炉を達成するには一時的な祝祭性が必ずしも有効であるとは限らない。であるならば、脱原発運動を記録したこの映画は、そのオルタナティヴな選択肢のひとつになりうるはずだ。というのも、この映画には脱原発を願って行動する人間に通底する心模様が鮮やかに映し出されており、それをある種の「共通感覚」として共有することが期待できるからだ。
いまやプロジェクターと平らな壁があれば、たとえ映画館でなくとも、上映会の開催はどこでも可能である。オルタナティヴ・スペースやカフェ、大学、民家、廃屋、あるいは神社仏閣など、使える場所はまだまだある。「カレが捕まっちゃった」を上映して来場者同士で議論する場を、全国津々浦々、ありとあらゆる街角に広げていくこと。そのような闘い方を、レイヤーのようにデモの上に重ねることで、現在の脱原発運動を今後もたしかに持続させていくための「厚み」と、心の底で脱原発を願っているにもかかわらず、それを表現することに躊躇している大多数の人びとを受け入れることのできる「拡がり」が生まれるのではないだろうか。

2012/03/09(金)(福住廉)

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