artscapeレビュー

村越としや「ここから見える光は?」

2012年04月15日号

会期:2012/03/06~2012/03/18

TAP GALLERY[東京都]

村越としやは福島県須賀川市の出身。いうまでもなく、震災による福島第一原子力発電所の大事故は他人事ではなかったはずだ。だが、今回彼がTAP GALLERYで開催した写真展を見てもわかるように、あえて原発や避難対象区域を撮影するのではなく、震災前から続けていた故郷の須賀川市を中心とした風景写真を発表している。35ミリ、6×6、6×7、パノラマサイズなど、さまざまなフォーマットの写真が壁に40枚ほど並んでいた。インクジェットで出力した大判プリントも1枚ある。もっとたくさん見せたかったそうだが、手持ちのフレームの数が足りなかったので断念したのだという。
村越の仕事は、いかにも古風でオーソドックスなモノクローム・プリントであり、湿り気の多い田園地帯や里山の眺めがしっとりとした雰囲気で画面におさまっている。その穏やかで繊細なたたずまいの風景を見ていると、震災や原発事故が実際に起こったことが信じられなくなってくるほどだ。だが逆に非常事態の写真があふれている現在の状況のなかで、彼があえて日常の眺めにこだわり続けていることの意味が見えてくる。震災後に6×7判のカメラで撮影した近作も6点ほど並んでいたが、その「変わりのなさ」に村越の強い意志を感じるのだ。これはこれで、震災に触発された写真のひとつの問いかけとして、充分に成立しているのではないだろうか。

2012/03/15(木)(飯沢耕太郎)

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