2017年06月15日号
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artscapeレビュー

後藤靖香 展

2012年05月01日号

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会期:2012/03/23~2012/04/23

第一生命南ギャラリー[東京都]

現代アートの展覧会でいつも不満に思うのは、来場者に作品の説明を十分にしないことを、ある種の美徳と考える風潮がアーティストたちのあいだで蔓延していることである。正解を隠したまま一方的に来場者に謎をかけて悦に入ったところで、それが社会的な拡がりや他者を巻き込む求心力を発揮することは断固としてありえないにもかかわらず、この悪習の根は思いのほか深い。だが、こうした独りよがりの思い込みが「現代美術は難解である」というクリシェをもたらしていることを思えば、批評の役割はこの因襲を言説の面で断ち切ることにある。とはいえ、アーティストの側からも、同じような問題意識が芽生えつつあることは、ひとつの希望と言える。
「VOCA奨励賞」や「絹谷幸二賞」の受賞など、近年目覚ましい活躍を見せている後藤靖香の個展では、横長の壁面を埋め尽くすほど巨大な絵画が上下に2点展示されたが、あわせて後藤自身による手書きのリーフレットが来場者に配布された。そこには、会場である第一生命館で戦時中に暗号解読の作戦に従事していた軍人たちの背景が記されており、展示された絵が「パンチカードシステム」という暗号解読のための統計器を駆使する男を描いていることがわかる。独自のアプローチで「戦争」に迫ってきた後藤ならではの趣向で、絵の理解と鑑賞がよりいっそう深められた。紙片の末尾には参考文献も明記されていたから、これは鑑賞のための手引きであると同時に、ある種の学術的なレポートでもあるわけだ。絵画のためのリサーチを繰り返す絵描きは少なくないが、このようにシンプルなかたちでそれを絵画に同伴させる手法は、今後の絵画のあり方を示すモデルになりうるのではないか。

2012/04/06(金)(福住廉)

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