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artscapeレビュー

嗅ぎたばこ入れ──人々を魅了した掌上の宝石

2012年05月01日号

会期:2012/03/28~2012/05/06

たばこと塩の博物館[東京都]

微粉末状にしたたばこを鼻から摂取する嗅ぎたばこ。はじめは固めたたばこの葉をその都度すり下ろして用いていたが、18世紀になってあらかじめ粉末にして香料などを調合した製品が販売されるようになったことで、持ち運びのための小さな器が求められるようになった。これが嗅ぎたばこ入れ(snuff box)である。
 嗅ぎたばこをめぐる文化の形成と伝播はとても興味深い。輸入品であるたばこは高価で、そのような商品をたしなむことはまず上流層のファッションとして拡がる。人々の目の前で取り出される嗅ぎたばこ入れには贅を尽くした装飾が施された。どのような嗅ぎたばこ入れを持っているか、どのようにたばこ入れを扱うか、どのようにたばこを嗅ぐか。その作法は人物の評価へとつながるようにもなる。同時代には作法書まで現われたという。たばこの価格が下がり、入手しやすくなると、嗅ぎたばこは地方の名士・豪農のあいだにも拡がった。上流層と同じようなものを持ち、同じように振る舞うことが、彼らが身分を誇示する手段のひとつであったが、高価な器を買うことはできなかったために、廉価な素材、簡素な装飾による嗅ぎたばこ入れが現われ、普及していったのだ。
 ヨーロッパでは嗅ぎたばこは19世紀初めに廃れ、豪華な嗅ぎたばこ入れもつくられなくなったという。その理由は明示されていなかったが、おそらく嗅ぎたばこの中心地フランスにおいて、革命によって宮廷文化を支えた階層が没落したことと、嗅ぎたばこが下層に拡大したことで、上流層はそれとは異なる新たな慣習を発展させていったのではないかと考えられる。
 展示は嗅ぎたばこの起源からはじまり、ロココ時代のヨーロッパのファッションにまで及ぶ。嗅ぎたばこ入れといえば中国の鼻煙壺(びえんこ)が有名であり、本展でも全体の3分の2ほどを占めているが、それ以前の時代につくられたヨーロッパの美しい嗅ぎたばこ入れを見ることができる貴重な機会である。嗅ぎたばこの習慣がなかった日本でつくられた輸出向けの嗅ぎたばこ入れも珍しい。[新川徳彦]

2012/04/08(日)(SYNK)

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