artscapeレビュー

報道写真とデザインの父 名取洋之助 日本工房と名取学校

2012年06月15日号

会期:2012/04/27~2012/06/26

日比谷図書文化館 IF特別展示室[東京都]

名取洋之助は写真家、編集者、プロデューサーと多面的な顔を持つ人物であり、その活動も一筋縄では捉え切れない。たしかに戦前の海外向け日本文化広報誌『NIPPON』や、1950年代に全286冊を刊行した「岩波写真文庫」など、輝かしい業績を残したが、一方では対中戦争における宣伝・謀略活動への関与や、わずか2年あまりしか続かず大失敗に終わった『週刊サンニュース』(1947~49)の刊行など、ネガティブな側面もないわけでもなかった。性格的にも、明るく派手好みでありながら、感情の起伏が激しく、怨みや妬みを買うことも多かったようだ。
今回の「報道写真とデザインの父 名取洋之助 日本工房と名取学校」に展示された作品・資料もなんとも雑駁に広がっていて、名取の仕事のとりとめのなさをよく示している。だが、その1点1点に目を向ければ、細部まで手を抜かずに仕上げられたクオリティの高さは驚くべきもので、まぎれもなく名取の優れた才能と美意識の産物であることがよくわかる。『NIPPON』のデザインやレイアウトなどは、当時の日本の水準をはるかに超えており、ヨーロッパの出版物と肩を並べる(時にはそれすら凌駕する)レベルに達している。
むしろ名取洋之助という希有な存在は、一個人としてよりは、1930~60年代の日本の写真家、デザイナー、編集者たちのネットワークの結節点(ハブ)、として捉えるべきなのではないだろうか。その意味で「日本工房と名取学校」という本展の副題は的を射ている。土門拳、藤本四八、三木淳、長野重一(以上写真家)、亀倉雄策、山名文夫、河野鷹思、熊田五郎(以上デザイナー)──綺羅星のように並ぶ若き俊英が、「名取学校」からその才能を開花させていく。その様はまさに壮観と言うしかない。

2012/05/15(火)(飯沢耕太郎)

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