2018年06月15日号
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artscapeレビュー

横須賀功光 展

2012年07月15日号

会期:2012/05/16~2012/07/21

エモン・フォトギャラリー[東京都]

横須賀功光(よこすか・のりあき)が2003年に亡くなってから、もう10年近くになる。彼は1937年の生まれだが、同世代の森山大道、中平卓馬、荒木経惟らが元気に仕事を続けているのと比較すると、60歳代の死去はやはり早すぎたという思いが拭えない。その意味で今回の展覧会のように、彼の1970~80年代の代表作をあらためて見直す機会を持つのはとてもいいことだと思う。こんな写真家がいたということを、記憶にも記録にも留めておきたいからだ。
今回の展示作品は「壁」(1972年)と「光銀事件」(1989年)の2つのシリーズ。特に裸体の男女がコンクリートの壁の前でパフォーマンスを繰り広げる「壁」は、あらためて見て、ぴんと張りつめた緊張感が漂ういい作品だと思った。この頃の横須賀は、広告・ファッションの世界で次々とヒット作を連発する人気写真家だったが、一方でこの「壁」のように、卓越したテクニックを駆使して人間の身体の極限状況を定着するようなプライヴェート・ワークにも果敢に取り組んでいた。このシリーズはニコンサロンでの個展「壁があった」で最初に発表され、「岩」「射」「城」「亜」など他の漢字一文字のタイトルを持つ作品とともに、山岸章二編集の写真集『射』(「映像の現代9」中央公論社、1972)におさめられる。今回は1500×1500ミリの大プリントに引き伸ばされて展示されていたが、そのことによって彼の緊密な画面構成と的確な演出力がよりくっきりと表われてきているように感じた。
1980年代の「光銀事件」になると、その緊張感はやや弛み、画面全体にふわふわと漂うような浮遊感が生じてきている。ソラリゼーションの効果を巧みに活かしながら、洗練されたエロティシズムの世界が織り上げられていくのだ。どちらを評価するかは好みが分かれそうだが、僕は「壁」の荒々しい実験意識により共感を覚えた。そこには同時代の森山大道や中平卓馬の「アレ・ブレ・ボケ」の写真に通じる、ざらついた空気感が漂っている。

2012/06/01(金)(飯沢耕太郎)

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