artscapeレビュー

第7回ベルリン・ビエンナーレ

2012年07月15日号

会期:2012/04/27~2012/06/01

KW Institute for Contemporary Art[ドイツ・ベルリン]

政治色を強く打ち出した過激な内容で話題になったのが、ベルリン・ビエンナーレである。メイン会場のエントランスには、ここはミュージアムではなく、活動の場なのだと書かれており、あちこちにアジテーションのチラシが貼られ、絶えず討議が行なわれていた。学生運動が盛んだった頃の大学のキャンパスのような雰囲気であり、個人的には駒場寮の空間が思い出される。次のビエンナーレのディレクターは動物にやらせろ、といった落書きで埋め尽された元教会の会場も強烈だった。巨大画面に投影された妊娠から出産までのジョアンナ・ラジコフスカによる映像作品《born in berlin》は、ただのプライベートな出産ビデオのようでもあり、これもアートか? という古典的な問いを発する。もっとも印象的だったのが、道路を黒い壁で遮断した作品だ。本当によく実現させたと感心したのだが、車の交通を止め、しかも街の階層の差も可視化している。その結果、この壁はまわりの憎悪を引き受け、落書きだらけになっていた。実際、この作品は広く物議をかもし、近くの商店の売上げも落ちたことから、会期の終了を待たずに撤去される。だが、与えられたハコの中で60年代の熱気を再現したような他の作品や活動に比べて、社会と直接的に向きあい、破壊されたという点において黒い壁の試みを評価したい。ベルリン・ビエンナーレのキュレーターであり、美術家のアルチュール・ジミエフスキーと面会する機会を得たが、アートはツールだと言い切っていた。

写真:上=落書きだらけの教会、下=道路を遮断した黒い壁

2012/06/02(土)(五十嵐太郎)

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