artscapeレビュー

森村誠「DAILY HOPE」

2012年09月15日号

会期:2012/07/13~2012/08/12

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

初めて見る森村誠の個展。希望を表わすhopeという言葉のアルファベット、h、o、p、e以外の文字を修正液ですべて塗りつぶした新聞紙が会場の壁面に張り巡らされていた。先に開催された東京での個展を私は見ることができなかったが、そのときは、この作品が床に敷き詰められ、鑑賞者がその上を歩きながら見る展示だったという。今回、森村が発表したこの《Daily Hope》という作品は、震災の影響やイメージが関係すると受け取られがちなのだそうだが、実際にはその制作は震災の数カ月前から始まっており、個人的な出来事の体験から着想を得ているのだという。以前、雑誌や分厚い辞書からt、h、o、m、a、s以外の文字を塗りつぶした《Dear Thomas》というこれに似た森村の作品を見たときに、私はそこに込められたユーモアと皮肉を知ったので、今回もきっとそのようなシニカルな態度が作品に潜んでいるのだろうとは予想していたのだが、詳しくは不明。いずれにしろ、新聞や雑誌というマスメディアを素材に用いたこの作品、一筋縄にはいかないコミュニケーションや言葉の問題を根底に隠しているに違いない。ところで、奈良の会場では、新聞紙を用いた作品が展示された隣の空間で同じシリーズの新作も発表されていた。宇宙開発を特集する科学雑誌にあるh、o、p、e以外の文字を塗りつぶし、コマ撮りした映像インスタレーションと、ドイツ語でHopeを表わす"Hoffnung"の文字以外を塗りつぶした古い星座図の作品。新聞のそれとは異なり、こちらの空間の2つの作品が文字通り「希望」という言葉を想起させるのは、自然の不思議と人間の想像力、人知が出会い、科学技術の進歩に発展するというイメージのせいだろうか。一連の作品でありながら対照的な印象をうける内容で面白かった。


左=展示風景
右=映像作品《Daily Hope〈Amazing Space〉》



ドイツ語で書かれた古い(1860年)星座図を用いた作品《HOPE〈Hoffnung〉》

2012/08/11(土)(酒井千穂)

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