artscapeレビュー

仙台コレクション写真展 vol.16

2012年09月15日号

会期:2012/08/07~2012/08/12

SARP(仙台アーティストランプレイス)[宮城県]

仙台在住の写真家、伊藤トオルを中心にして大内四郎、松谷亘、小滝誠、斎藤等、片倉英一、安倍玲子、佐々木隆二の8人によって2001年から開始されたのが「仙台コレクション」。仙台市内の建物、橋、道路などの「日々失われていく無名の風景」を区域ごとに担当を決めて、できうる限り正確に撮影し、プリントに残そうというユニークなプロジェクトである。1万枚を目標に開始された「コレクション」の点数は6,000枚を超え、まだ道のりは遠いが、ようやくゴールがおぼろげに見えてきた。今回のSARPでの展示は、その16回目の中間報告ということになる。
会場には6切りサイズのプリントが22点、やや大きめのA3サイズのプリントが8点並んでいた。写真の選択も、プリントの質もきちんと整えられているので、「仙台コレクション」の全体像を知る者にとってはこれくらいの数でちょうどいいかもしれない。だが、そうではない観客にはその意図がややわかりにくいだろう。やはりもう少し展示の点数を増やすとともに、プロジェクトの概要についての丁寧な解説もほしかった。それと、どうやらこの種のタイポロジー的な作品の場合、プリントのサイズはあまり大きくない方がいいように思える。小さめのサイズの方が、視点が拡散せず、写真の細部まで把握しやすいからだ。
「仙台コレクション」の営みは、昨年の東日本大震災によってさらに重要度を増しつつある。すでに都市開発などによって、2000年代初頭に撮影された建物のうちかなりの数が失われてしまった。震災はまさにその状況を加速させていったのだ。むろんその進行に歯止めをかけることはできない。だが撮影しておくことで、記憶を喚起する手がかりを未来に向けて残すことは可能だ。目標の1万枚に達したとき、どんな眺めが見えてくるのかが今から楽しみだ。

2012/08/07(火)(飯沢耕太郎)

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