artscapeレビュー

オールドノリタケのなかの女性たち

2012年10月01日号

会期:2012.09.14~2012.11.11

八王子市夢美術館[東京都]

1876(明治9)年に森村市左衛門によって創業された森村組、および1904(明治37)年に森村組が設立した日本陶器合名会社(1917年に日本陶器株式会社、1981年に株式会社ノリタケカンパニーリミテドに改称)において、明治から昭和初期にかけ製作された陶磁器を「オールドノリタケ」という。製品は欧米、とくに北米への輸出向けに生産されたために、国内ではほとんど知られておらず、1970年代にアメリカで「再発見」された。日本では「里帰り」を実現させた一部の蒐集家たちによって1990年代になってようやくその名前が知られるようになり、近年はずいぶんと蒐集家の数も増えてきたようだ。本展で初公開されるオールドノリタケも蒐集家田端義雄氏のコレクションの一部である。オールドノリタケというと、西洋風の風景画や女性像の周囲に金盛で豪華な装飾を施した壺などが知られるが、今回はおもに1920年代に製造されたアールデコ様式の製品、なかでも女性をモチーフにした作品約100点が出品されている。
 アールデコ様式のノリタケ製品には、絵皿のように絵画的にモチーフを表現したもの(チラシ画像参照)と、フィギュアを模ったランプ[図1]や小物入れ[図2]、シガレットジャーやキャンディー入れ、香水瓶などの立体的な作品とがある。この時代の製品にはラスター彩と呼ばれるパールのような輝きの釉薬が用いられているのも特徴のひとつである。絵付けにはエルテ(Erte、1892-1990)やホーマー・コナント(Homer Conant、1887-1927)の作品や雑誌などからモチーフがとられ、立体作品にはロブジェ(Robj)など同時代のフランス陶磁器からの影響も見られる。
 輸出商であった森村組は1878(明治11)年にはニューヨークに支社を設立。1895(明治28)年には現地に図案部を設置し、アメリカ人の嗜好に迅速に対応して製品をつくるシステムを整えていたという。現地デザイナーによる図案や流行に関する情報は日本に伝えられ、日本の工場でつくられた製品が欧米に輸出されていたのである。1929年10月に始まる大恐慌によりアメリカでの陶磁器需要が収縮し、これを境にノリタケ製品はアールデコなどファンシーウェアから、より実用的なディナーウェアへと切り替えられた。市場の変化を読み、顧客の満足に応えることを信条とした経営を行なった森村組と日本陶器。美しくモダンな装いの女性像は、様式という点で時代を反映しているばかりではなく、第一次世界大戦の終結から大恐慌までの短い期間、その時代背景の下で輝きを放つ存在だったのである。[新川徳彦]


1──レディーのナイトランプ(田端コレクション)
2──椅子に座る女(田端コレクション)

2012/09/27(木)(SYNK)

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