artscapeレビュー

ドクメンタ13

2012年10月15日号

会期:2012/06/09~2012/09/16

カッセル中央駅+カールスアウエ公園[カッセル(ドイツ)]

昨夕中央駅に寄ってみたら、ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーの受付の前に長い行列ができていたので(今回は入場制限のある作品が多く、あちこちに行列ができている)、今朝は開場1時間前に駅へ。ところがすでに20人ほどの列が! みんな考えることは同じなのだ。と、列の前のほうにY美術館のA野太郎氏がいて、おいでおいでしているので前のほうへ。こうして開場まもなく体験することができた人気の作品とは、受付でiPodとヘッドホンを借り、音と映像に従って駅構内を移動していくというもの。iPodには中央駅を舞台にしたドラマが流されていて、観客は映像と同じ場所を探して歩き回る仕組み。ヘッドホンが高性能なので、右側から車の通る音がすると実際にはなにも走ってないのに左によけてしまうのだ。こうして20-30分間、虚と実のあいだを行き来することになる。情報通信機器を利用して情報通信の落差や危うさを突いている。これはよくできてるなあ、彼らは2005年のヨコトリにも出ていたけど、あのときはいかにも手を抜いてたからな。このあと自転車を借りて、カールスアウエ公園に点在する野外作品を見に行く。最初に見たのは、ブロンズ製の木の上に大きな岩がのっているジュゼッペ・ペノーネの彫刻。こんな野外彫刻が公園中に並んでいるのかと思ったら大間違い、多くのアーティストはそれぞれ小さなパビリオンを設け、そのなかで展示しているのだ。ずいぶんお金かけてるなあ。でもパビリオンを単に展示室ととらえ、内部で映像を流すだけみたいなつまらない作品も多かった。その点、ガラクタを詰め込んだボロ小屋から音や煙が流れ、周囲の木に小舟が引っかかっている大竹伸朗のインスタレーションはなかなかの力作。その近くのちょっと荒れた廃材置き場みたいな場所には片足が赤い犬が徘徊し、頭部がハチの巣におおわれた裸婦彫刻が置かれている。この奇妙な作品はピエール・ユイグ。また、ライアン・ガンダーとジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーはここにも出していて、前者は地面にハッチを取り付けて、あたかも地下クラブから流れてくるかのようにポップミュージックが聞こえてくる作品、後者は森の木に環状に設置されたスピーカーから流れてくる音楽を聞く作品だ。そういえば今回はほかにもスーザン・フィリップスやシール・フロイヤーなど音を聞かせる作品が目立った。全体に未知のアーティストが多かったが、さすが国際展の常連作家は見ごたえ(聞きごたえ)のある力作を出していて、だれも手を抜いてない。ここらへんにドクメンタの底力を感じるなあ。冷戦崩壊後しばらく低調に感じていたドクメンタだが、今回は大げさにいえば、みずから推し進めてきた20世紀のモダンアートの流れに異議を唱えつつ、作品の商品化やアートマーケットの過熱ぶりに背を向けるかたちで復活を遂げたという印象だ。これを「ドクメンタの逆襲」と呼びたい。


Janet Cardiff & George Bures Miller, Alter Bahnhof Video Walk

2012/09/12(水)(村田真)

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